美術館の白い壁に飾られた、縦に切れ込みの入ったシンプルな抽象画を、顎に手を当てて静かに見つめる女性の後ろ姿

なぜアート?|「美術がよくわからない」あなたへ贈る、やさしい美術のはなし

美術館の白い壁に飾られた、縦に切れ込みの入ったシンプルな抽象画を、顎に手を当てて静かに見つめる女性の後ろ姿

美術館に足を運んでも、絵の前で「これ、どう感じればいいんだろう」と立ち止まってしまう。誰かに「どうだった?」と聞かれても、うまく言葉が出てこない。学校の美術の授業で覚えた作家の名前も、技法の名前も、もうほとんど忘れてしまった。

そんなふうに、「美術がよくわからない」「なんだか難しそう」「自分には縁のない世界」と感じている方は、きっと少なくないと思います。かしこまった美術館の空気や、作品の横に書かれた小さな解説文を見て、なんだか試されているような気持ちになってしまう。わかる人だけが楽しめる、特別な趣味なのだと思ってしまう。

けれど、少しだけお伝えしたいことがあります。アートは、本来そんなに難しいものではなかったはずなのです。今日は、油絵を描く作家や作り手でもあるスタッフが、ふだん感じていることをたたき台として、やさしく美術のはなしをしてみたいと思います。答えを教える記事ではなく、一緒に少し肩の力を抜いてみるための時間だと思って、読んでいただけたらうれしいです。

「わからなくていい」から、はじめよう

まず最初にお伝えしたいのは、美術を前にして「わからない」と感じることは、まったく恥ずかしいことではない、ということです。むしろ、それがごく自然な入り口なのだと思います。

わたしたちはつい、美術には「正しい見方」や「正しい感想」があって、それを知らないと楽しんではいけないような気がしてしまいます。作者の意図を当てなければいけない、時代背景を知らなければ語る資格がない。そんなふうに、知らず知らずのうちに、自分にハードルを課してしまっていることがあります。

でも本当は、アートを楽しむのに、正解を当てる力は必要ありません。必要なのは、ただ目の前の一枚を見て、自分の中に生まれた小さな感覚に気づくことだけです。「なんだか落ち着く」でも、「よくわからないけど嫌いじゃない」でも、「この色、好きかも」でもいい。それだけで、もう十分にアートと向き合えているのだと思います。

専門知識は、あとからついてくるおまけのようなものです。順番を間違えなくていい。知識を先に積んでから楽しむのではなく、まず感じてみて、気になったら少しだけ調べてみる。その順番のほうが、ずっと自分らしく美術と付き合っていけるはずです。

人は、なぜアートを続けてきたのか

そもそも、なぜ人はこんなにも長く、アートというものを手放さずにきたのでしょうか。少しだけ歴史をさかのぼってみたいと思います。

洞窟に残された、はじめての絵

フランス南西部にあるラスコー洞窟には、約2万年前に描かれたとされる動物たちの壁画が残されています。牛や馬、鹿などが、暗い洞窟の壁いっぱいに躍動感たっぷりに描かれていて、その価値の高さから1979年にユネスコの世界遺産にも登録されました。さらに同じフランスのショーヴェ洞窟では、なんと約3万6千年前にまでさかのぼるとされる壁画が発見されており、これは現在確認されている中でも最古級の絵画のひとつとされています。こちらも2014年に世界遺産に登録されました。

今のように、スマートフォンもテレビも、ましてや美術の教科書もなかった時代に、人は暗い洞窟の奥深くまで入り込み、灯りをともしながら、動物の姿を壁に描いていました。生き延びるための狩りや食料の確保だけで精一杯だったはずの毎日の中で、それでも人は、何かを「描く」ということをやめなかったのです。

日本に目を向けても、同じようなことが言えます。縄文時代の人々は、1万年以上前から、土を焼いてうつわを作るときにも、ただ実用のためだけではなく、縄目の文様や不思議な装飾を丁寧に加えていました。実用品であるはずの土器にすら、なにかしらの「かたち」への想いを込めていた。これは、とても興味深いことだと思います。

くらしの中にあった、かざるという行為

絵を描くこと、うつわに模様を施すこと、身体に装飾をほどこすこと。これらはすべて、生きていくために「絶対に必要」というわけではありません。それでも人類は、道具を使い始めたのとほとんど同じ時期から、ずっとそれを続けてきました。

おそらく人は、ただ生き延びるだけでは満たされない生きものなのだと思います。目の前の景色に心を動かされたこと、大切な人を想う気持ち、季節が巡っていくことへの畏れや喜び。そうした、ことばだけではすくいきれない感情を、かたちや色にして残しておきたい。そんな衝動が、大昔からずっと、わたしたちの中に流れているのではないでしょうか。

そう考えると、アートは特別な誰かのための、限られた文化ではなく、もっと素朴に「人が人であること」に根ざした営みだったのだと思えてきます。美術館の白い壁に飾られた高価な一枚も、遠い昔に洞窟の壁に刻まれた一頭の牛も、金継ぎの器に走る一本の金の線も、根っこにある想いはきっと、そう遠くないところにあるのです。完璧さや正しさよりも、そこに宿った物語や、一つひとつの違いそのものを愛おしむ感性は、はるか昔から、わたしたちのくらしの中に息づいてきました。

欠けを、うつくしさに変えるという発想

日本には、割れてしまった器を金でつないで直す「金継ぎ」という技術が、室町時代のころから受け継がれてきました。壊れたものを隠すのではなく、あえて金の線を目立たせながら、欠けたことそのものを景色として楽しむ。同じ時代に育まれた茶の湯の文化には、完璧に整ったものよりも、少し歪んだかたちや、静かで簡素なたたずまいに美しさを見いだす「侘び寂び」という美意識もありました。

では、そんなアートは、今を生きるわたしたちに、どんなものを届けてくれるのでしょうか。ここでは、二つのことをお話ししたいと思います。

正解より、自分の答えを

わたしたちの日常は、正解を求められる場面にあふれています。仕事では効率のよい答えが求められ、学校では決められた解き方が正しいとされ、SNSでは「いいね」の数が、まるで評価のように感じられてしまうこともあります。

そんな毎日の中で、一枚の絵の前に立つ時間は、少し特別なものになります。そこには、テストのような正しい答えはありません。「あなたはどう感じましたか」と、静かに問いかけられているだけです。誰かと違う感想を持ってもいいし、専門家とは違う見方をしてもいい。むしろ、その違いこそが、アートのおもしろさなのだと思います。

自分の感覚に、そっと耳をすませてみること。それは、ふだん他人の評価や正解ばかりを気にして生きているわたしたちにとって、実はとても贅沢で、大切な時間なのかもしれません。

余白が、あなたを休ませてくれる

絵の中には、はっきりと説明されていない部分がたくさんあります。空白のまま残された背景、あいまいに描かれた表情、なにを表しているのかわからない色の重なり。そうした「余白」を前にすると、人はつい、そこに自分の記憶や気持ちを重ねてしまいます。

世界保健機関(WHO)欧州地域事務局は2019年、芸術と健康・こころの結びつきについてまとめた報告書を発表しており、絵を描いたり鑑賞したりする文化的な活動が、人のこころの健やかさと関わりを持ちうることが、国際的にも注目されています。難しい理屈は抜きにしても、絵の前でぼんやりと過ごす時間が、なんだかほっとする、という感覚を持ったことがある方は多いのではないでしょうか。

アートの余白は、埋めなければいけない空欄ではなく、あなたが少し息をつくための場所です。何かを「理解しなければ」と気を張るのではなく、ただそこに漂うことを許してくれる。そんな役割を、アートは静かに担っているのだと思います。

忙しい毎日の中では、何かを「理解する」より先に、何かを「処理する」ことに時間を使いがちです。届いた連絡に返信し、こなすべき用事を片づけ、次の予定に向かう。そんな一日の中に、答えのいらない時間をひとつだけ差し込んでみる。それだけで、少し呼吸が深くなるような感覚を得られることがあります。アートは、そのための小さなきっかけになってくれます。

身近なアートの、小さな入口

とはいえ、いきなり大きな美術館に一人で足を運ぶのは、まだハードルが高いと感じる方もいらっしゃると思います。ここでは、もう少し身近なところから、アートに触れてみる入口をいくつかご紹介します。

  • 気になる展覧会があったら、事前に予習せずに、まず何も知らないまま見に行ってみる
  • お気に入りの一枚のポストカードや小さな複製画を、部屋のどこかにそっと飾ってみる
  • 美術館では、すべての作品を見ようとせず、心に留まった数点だけをゆっくり眺めてみる
  • 感想を誰かに説明しようとせず、まずは自分だけのメモやスケッチブックに残してみる
  • 実際に自分の手を動かして、色をのせたり、かたちを作ったりしてみる

特におすすめしたいのは、最後の「自分の手を動かしてみる」という入口です。見るだけでは気づけなかったことも、実際に絵の具を筆にのせたり、粘土をこねたりすると、ふとした瞬間に見えてくることがあります。うまく描こう、上手に作ろうとしなくて大丈夫です。むしろ、うまくいかない線や、思い通りにならない色の混ざり方にこそ、その日のあなたらしさが表れているのかもしれません。

また、美術館に足を運ぶときは、音声ガイドや解説パネルを最初から読み込もうとしなくてもいいのです。まずは何も読まずに一周してみて、なんとなく足が止まった作品のところだけ、あとから解説を読んでみる。そんな順番でも、じゅうぶんに展覧会を楽しむことができます。知識は、感じたあとについてくる、うれしいおまけくらいに考えておくと、肩の力がすっと抜けるはずです。

poppy questでは、そんな「まず手を動かしてみる」時間として、造形クラブという場も設けています。絵を習っていた経験がなくても、うまく描けるかどうかを気にする必要もありません。90分¥4,000、初回は¥2,000というかたちで、ふらっと立ち寄っていただけるような気軽さを大切にしています。もちろん、無理に足を運んでいただく必要はありません。あくまで、アートに触れる小さな選択肢のひとつとして、心の片隅に置いていただけたらうれしいです。

正解より、自分の答えを。✨️

poppy questという屋号には、「つくる、つながる、わたしらしくいきる。」という合言葉を込めています。この言葉の根っこにあるのも、今日お話ししてきたことと、実はよく似ています。

アートは、誰かに正しさを判定してもらうためのものではなく、自分自身の感じ方や、その日その時の気持ちに、そっと気づかせてくれるものだと考えています。上手か下手か、詳しいか詳しくないか。そうした物差しから少し離れたところに、アートの本当のやさしさがあるのではないでしょうか。

正解より、自分の答えを。

これは、poppy questが大切にしている考え方です。誰かの正解をなぞるのではなく、自分の中から生まれてくる小さな声に耳をすませること。その声は、絵の前に立ってみないと、なかなか聞こえてこないものです。だからこそ、まずは肩の力を抜いて、一枚の絵の前に立ってみてほしいのです。

「美術がよくわからない」というあなたの気持ちは、これからアートと出会っていくための、とても自然なスタート地点です。わからないままでいい。感じたことを、そのまま大事にしてもらえたら、それだけでもう、あなたとアートとの物語は、静かに始まっているのだと思います。

まとめ

美術は、知識のある人だけのものではなく、遠い昔からずっと、暮らしの中に寄り添ってきた身近な営みでした。正解を探すのではなく、自分の中に生まれた小さな感覚に気づくこと。それだけで、アートとの向き合い方は、もう十分に始まっています。

poppy questでは、美術に苦手意識のある方にも「わかっていなければ楽しめない」と感じずに済むよう、専門用語を使わず、感じたままの言葉を大切にしながら、一緒にアートとの距離を縮めていくお手伝いをしています。少しでも気になることがあれば、堅苦しく考えず、お気軽にご相談ください。

あわせて見たい

つくる、つながる、わたしらしくいきる。

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予定不調和や予想外だって大歓迎。
あなたの中の好奇心や輝きを、そっと呼び起こします。

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🎨 オフィスアート(空間にアートを。オーダーメイドも)
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