ピカソ meets ポール・スミス展を200%楽しむ|ポール・スミスが仕掛けた“遊び心”の見どころ

「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」という展覧会、気になってはいるけれど、ピカソの絵は正直よくわからないし、現代アートも得意ではない。ポール・スミスという名前もファッションの人というイメージしかなくて、美術展とどうつながるのか想像がつかない。そんなふうに、興味はあるのに一歩を踏み出せずにいる方は、案外多いのではないでしょうか。
難しい予習をしてから行かなければ楽しめない、というものではありません。この展覧会は、むしろ「知識がなくても楽しめるように」という仕掛けが随所に用意されていそうな、少し変わったつくりの展覧会だからです。この記事では、会場やコラボレーションの背景をやさしくひもときながら、初めての方でも自分なりの楽しみ方を見つけられるように、見どころをご紹介していきます。
展覧会というと、どうしても「勉強しに行く場所」というイメージがついてまわります。学生時代の美術の授業を思い出して、なんとなく身構えてしまう方もいるかもしれません。けれど本来、絵を見るという行為はもっと自由で、もっと個人的なものです。今回の展覧会は、その自由さを取り戻すきっかけになりそうな要素をいくつも持っています。まずは肩の力を抜いて、この記事を読み進めていただければと思います。
会場は六本木・国立新美術館
「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」展の会場は、六本木にある国立新美術館です。ガラス張りの波打つような外観が印象的な、国内でも指折りの大きな美術館で、これまでも数多くの大型展が開催されてきました。アクセスのしやすさもあり、美術館に慣れていない方にとっても訪れやすい場所だと思います。
本展では、パリ国立ピカソ美術館が所蔵する作品からインスピレーションを得て、ピカソの初期から晩年までの作品、約80点が展観されます。一人の画家がこれほど長い年月のなかでどう変化していったのかを、まとめて眺められる機会というのは、実はそう多くありません。
そしてこの展覧会をユニークなものにしているのが、その空間づくりを手がけたのが美術の専門家ではなく、英国人ファッションデザイナーのポール・スミスだということです。
国立新美術館は、他の多くの美術館とは違い、自分たちの所蔵作品を持たない「コレクションのない美術館」として知られています。そのぶん、国内外のさまざまな美術館や個人の所蔵品を借り受けて、そのときどきで大規模な企画展を開催してきました。今回のように、海外の名だたる美術館の所蔵作品がまとまって見られる機会をつくれるのも、そうした国立新美術館ならではの役割があってこそだと言えます。
ファッションデザイナーが美術展をつくる、という異色の組み合わせ
ポール・スミスといえば、ストライプ柄や鮮やかな色使いで知られる英国のファッションブランドとして、名前だけは聞いたことがあるという方も多いはずです。スーツやシャツのブランドを手がけるデザイナーが、なぜ美術展の会場デザインを担当することになったのか。そこにまず、この展覧会ならではの面白さがあります。
本展では、パリ国立ピカソ美術館所蔵作品からインスピレーションを得て、ポール・スミスが会場のレイアウトや空間演出そのものを考案しています。つまり、壁の色や作品同士の並べ方、照明の当て方といった「見せ方」の部分に、ファッションデザイナーとしての感性がそのまま持ち込まれているということです。
美術館の展示というと、白い壁に静かに作品が並んでいて、来場者はその前を粛々と歩いていく、というイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。もしそうだとしたら、今回の会場はそのイメージから少し外れたものになるかもしれません。絵を見るための場所そのものが、ひとつの作品としてデザインされている、という体験は、美術展にあまり慣れていない方にとっても、むしろ新鮮に感じられるはずです。
「専門家ではない人が、専門的な場に自分の視点を持ち込む」というのは、実はとても勇気のいることです。それでもポール・スミスがこの仕事を引き受けたのは、ピカソの作品に対して、自分なりの敬意と親しみの両方を持っていたからなのだろうと想像します。その姿勢自体が、この展覧会を楽しむための最初のヒントになるように思うのです。
ファッションデザイナーが美術展の空間演出を手がけるという組み合わせは、決してよくあることではありません。だからこそ、これまで美術館に足を運んだことがある方にとっても、今回の展覧会は新鮮な体験になるはずです。「いつもの美術館」とは少し違う空気を感じ取れるかどうか、その違いを探しながら歩いてみるのも、ひとつの楽しみ方だと思います。
ピカソの絵は、正解を探さなくていい
ピカソと聞くと、顔のパーツがばらばらな位置に描かれた、あの独特な絵を思い浮かべて身構えてしまう方も少なくないと思います。「あれは一体何を表現しているのか」「どう解釈すれば正解なのか」と考え始めると、とたんに難しく感じられてしまう。これは、美術に苦手意識を持つ方の多くが口にすることです。
けれど、ピカソ自身は生涯を通じて、ひとつのスタイルにとどまることをしませんでした。若い頃には基礎をしっかり学んだうえでの写実的な絵を描き、そこから青を基調とした静かな作品の時期を経て、顔や身体を大胆に分解し組み立て直すような表現へと進んでいきます。さらに晩年になると、また違った勢いのある筆致を見せるようになりました。約80点という規模でその変化をまとめてたどれるということは、裏を返せば「正解の絵」がひとつも存在しない画家だった、ということでもあります。
ひとつのスタイルに安住せず、そのときどきで描き方を変え続けた画家の作品を前にして、鑑賞する側だけが「正しい見方」を持たなければならない、というのはどこか不自然な話です。ピカソ自身が変わり続けたのなら、見る私たちの感じ方も、そのときどきで変わってかまわないはずです。
だとしたら、鑑賞する側にも、ただひとつの正しい見方などないはずです。ここで、油絵作家として活動するスタッフがいつも大切にしている考え方をひとつ紹介させてください。正解より、自分の答えを。これは、poppy questが絵と向き合うときにいつも大事にしている姿勢です。
色の組み合わせがきれいだと感じる。形のバランスがおもしろいと感じる。なんだか落ち着かない気持ちになる。そのどれもが、その絵に対するあなたの「答え」です。美術史の知識がなければ楽しめない、ということはありません。感じたことに、間違いはひとつもないのです。ピカソの作品を、難しい記号としてではなく、色や形の遊びとして眺めてみる。それだけで、会場での時間はずいぶん軽やかなものになるはずです。
ポール・スミスらしい「遊び心」は、どこに表れるのか
展覧会のタイトルにも入っている「遊び心の冒険へ」という言葉。ここには、ポール・スミスというデザイナーの持ち味がそのまま反映されていると言われています。ポール・スミスのブランドといえば、定番のクラシックなスーツのなかに、ふとした瞬間に鮮やかなマルチストライプがのぞく、といった意外性のある組み合わせで知られてきました。まじめなものと遊び心のあるものを、絶妙なバランスで同居させる感覚です。
この感覚が会場デザインにも活かされているとすれば、たとえば壁の色使いに、美術館らしからぬ鮮やかな色が使われていたり、作品と作品のあいだの余白の取り方に、思いがけないリズムが生まれていたりすることが期待されます。実際に会場でどのような色や配置に出会うことになるのかは、ぜひご自身の目で確かめていただきたいところですが、「きっちり整列した展示」ではなく「歩くこと自体が楽しい展示」を目指しているのではないか、という期待感を持って訪れてみると、会場に入った瞬間の印象がまた違って感じられるかもしれません。
ファッションの世界で長年培われてきた「見せ方」の感覚と、ピカソという圧倒的な存在感を持つ画家の作品。この二つがどう掛け合わされているのかを想像しながら歩くこと自体が、すでにひとつの楽しみ方だと言えるのではないでしょうか。
ポール・スミス自身は、これまでのインタビューなどで、若い頃から美術に強い関心を持ち、多くの画家の作品からデザインのヒントを得てきたと語ってきた人物としても知られています。洋服のデザインと絵画の鑑賞が、彼のなかでは地続きのものだったのかもしれません。だとすれば今回の会場デザインは、彼にとって畑違いの仕事ではなく、長年温めてきた感性をようやく形にする機会だったとも考えられます。
色とりどりのストライプや、一見合わなそうな色同士を組み合わせてしまう大胆さ。それでいて、着る人を選ばない親しみやすさも併せ持つ。ポール・スミスというブランドが長年愛されてきた理由は、まさにその絶妙なバランス感覚にあります。まじめさと遊び心は、対立するものではなく、両方あってはじめて心地よくなる。この感覚を会場全体で味わえるとしたら、それはピカソの絵をより身近に感じるための、またとない橋渡しになるはずです。
初めての方のための、会場での楽しみ方のヒント
ここからは、美術館に不慣れな方に向けて、当日の過ごし方についていくつかヒントをお伝えします。以前の記事「初めての美術館ガイド」でもお伝えした内容と重なる部分もありますが、今回の展覧会に合わせて改めてまとめてみます。
- 解説パネルを読む前に、まず絵そのものを眺めてみる。知識より先に「感じる」時間を自分に許してあげてください。
- 気になった作品の前では、少し長めに立ち止まる。全部を均等に見ようとしなくて大丈夫です。
- 会場の壁の色や作品の並び方など、絵以外の部分にも目を向けてみる。今回はそこにこそ、ポール・スミスの工夫が詰まっています。
- 混雑する時間帯を避けたい場合は、平日の午前中や、開館直後・閉館前を狙うのがおすすめです。
- すべてを一度に理解しようとせず、「また来てもいいんだ」というくらいの気持ちで臨む。
特に大切にしていただきたいのが、最初の「感じてから読む」という順番です。解説文を先に読んでしまうと、どうしても「そう見えなければいけない」という気持ちが先に立ってしまいます。まずは自分の目と気持ちで絵と向き合い、そのあとで解説を読んで「なるほど、そういう背景があったのか」と答え合わせをする。この順番を守るだけで、鑑賞の満足度はぐっと変わってきます。
また、すべての作品の前で立ち止まろうとしなくて大丈夫です。約80点という点数は、決して少なくありません。真剣に一点ずつ向き合おうとすると、後半は疲れてしまって、かえって印象が薄くなってしまうこともあります。気になった作品にだけ時間をかけ、そうでない作品はさらりと通り過ぎる。そのくらいの軽やかさで臨むほうが、結果として記憶に残る鑑賞になりやすいものです。
会期や開館時間、チケットの購入方法、混雑状況といった最新の情報は、会期中に変更される場合もあるため、出かける前に国立新美術館の公式サイトで確認しておくと安心です。特に週末や会期終盤は来場者が多くなりやすい傾向がありますので、ゆったりと過ごしたい方は平日や早い時間帯を選ぶとよいでしょう。
また、会場を出たあとに、印象に残った作品や空間について、誰かと話してみることもおすすめです。同じ絵を見ても、隣にいた人とはまったく違う感想を持っていることに気づくはずです。感じ方が人それぞれ違っていい、ということそのものが、この展覧会が伝えたいメッセージなのかもしれません。
知識がなくても、自分なりに楽しめる展覧会
「ピカソ meets ポール・スミス 遊び心の冒険へ」展は、ピカソという巨匠の作品を、ファッションデザイナーという異なる視点を通して見せようとする、意欲的な試みです。だからこそ、美術に詳しい人だけのための展覧会ではなく、詳しくない人にこそひらかれた展覧会になっているのではないかと感じます。
知識という入り口ではなく、色や形、空間の心地よさという入り口から入っていく。そんな鑑賞のしかたがあってもいい、ということを、この展覧会そのものが体現してくれているように思います。わからないことは、恥ずかしいことではありません。むしろ、わからないままに心が動いた瞬間こそ、大切にしてほしいと思うのです。
会場に足を踏み入れたら、まずは深呼吸をひとつ。答えを探しに行くのではなく、色や形やその場の空気を、ただ味わいに行く。そんな軽い気持ちで臨んでみてください。ピカソの絵も、ポール・スミスが仕掛けた空間も、きっとあなただけの見え方で迎えてくれるはずです。
poppy questでは、美術館めぐりが初めての方にも安心して楽しんでいただけるよう、絵の見方や感じ方について、堅苦しくないやりとりを大切にしています。「こんな見方で合っているのかな」「難しく考えすぎているかもしれない」といった小さな疑問も、お気軽にご相談ください。
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