左右2分割の比較画像。左側は写実的で緻密な水彩画で描かれた街並みと橋のある風景、右側はピカソ風の色鮮やかで自由なタッチの人物画2人。

図工・美術は「上手に描く」ことがゴールなの?|ピカソが子どものように描くのに一生かかった理由

左右2分割の比較画像。左側は写実的で緻密な水彩画で描かれた街並みと橋のある風景、右側はピカソ風の色鮮やかで自由なタッチの人物画2人。

図工の授業でもらってきた絵を見て、なんだか元気がない。「どうしたの?」と聞くと、「わたし、絵が下手だから」とぽつり。隣の席の子の絵は先生に褒められていたのに、自分の絵は何も言われなかった――。そんな小さな出来事から、絵そのものが苦手になってしまう子は少なくありません。

お迎えの道すがら、通知表の「図工」の欄をなんとなく見てしまったり、コンクールの入選作品と我が子の絵を比べてしまったり。そんなときに心のどこかで感じる、小さなひっかかり。「うちの子、絵は苦手なほうなのかな」「もっと上手に描けるように、練習させたほうがいいのかな」。子どもの自信を守りたいのに、何をどう声をかけたらいいのか分からず、もやもやしたまま過ごしている保護者の方も多いのではないでしょうか。

この記事では、「上手に描くこと」と「その子らしく描くこと」は、実はまったく別の物差しであるというお話をしていきます。図工や美術の授業を否定するつもりはまったくありません。ただ、絵にはもうひとつ別の見方があるということを知っているだけで、お子さんの絵との向き合い方が、ふっと軽くなるかもしれません。「上手に描けるようになってほしい」という願いも、「その子らしさを大事にしたい」という願いも、どちらも子どもを想う気持ちから生まれるものです。二つの願いは対立するものではなく、実はどちらも持っていていいのだと知ることが、この記事のいちばんの目的です。

実は、学校教育そのものが「上手・下手」だけを目指しているわけではありません。文部科学省の学習指導要領・図画工作科でも、目標として挙げられているのは、技能の習得だけでなく「造形的な創造活動の基礎的な能力を培う」ことや「豊かな情操を養う」ことです。つまり本来、図工の授業は「正確に描く力」と同じくらい、「自分の感じ方を形にする力」も大切にするようにつくられています。それでも現場では、点数や成績という仕組みの中で、どうしても「見本にどれだけ近いか」が測りやすい基準として前面に出やすい、という事情があるのだと思います。

「評価される絵」ってどんな絵?

学校の図工・美術の授業には、どうしても「評価」という役割がついてまわります。観察画であれば、対象をどれだけ正確に捉えているか。色使いであれば、指定された技法をどれだけ再現できているか。もちろんこれ自体は悪いことではなく、ものをよく見る力や、道具の使い方を身につける、とても大切な学びです。

ただ、評価という仕組みの中では、どうしても「見本に近いかどうか」「バランスよく整っているかどうか」が基準になりやすいのも事実です。輪郭線がはみ出ていないか。空は水色で塗ったか。人物の比率はおかしくないか。そういった「正しさ」に沿った絵が、結果として高く評価されやすくなります。

その基準自体が悪いわけではありません。けれど子どもの側からすると、「正しく描けたかどうか」と「自分がどう感じて描いたか」が、いつのまにか同じ土俵で比べられてしまうことがあります。空を紫に塗った子と、水色にきれいに塗った子。どちらも、その子なりの絵であるはずなのに、評価という物差しの上では優劣がついてしまう。ここに、多くの子が「絵は上手い・下手で語られるもの」だと思い込んでしまう入り口があるように思います。

ゴッホやピカソの絵は、「上手」だったのか

ここで少し、美術史に目を向けてみます。ゴッホの《ひまわり》や《星月夜》は、世界中の美術館で名画として扱われ、多くの人の心を動かしてきました。けれど、あの絵をもし「見本どおりに正確に描けているか」という学校のテストの基準で採点したら、決して満点の絵ではないはずです。空はうねり、星はまるで渦を巻くように誇張され、実際の風景とは違う色や形で描かれています。

ピカソの絵はさらに顕著です。顔の向きがばらばらで、目や鼻の位置が「正しく」ない。子どもが「先生、目の位置が違うよ」と指摘してもおかしくないような描き方です。それでも、その絵は世界中の美術館に飾られ、今なお多くの人を惹きつけています。

つまり、名画と呼ばれる絵の多くは、「正確さ」の物差しでは測れない場所にあるということです。上手・下手という一本の軸だけでは、ゴッホやピカソの絵の価値は説明できません。そこにあるのは、その人にしか見えていなかった世界の見え方であり、その人だけの手の動きです。

ゴッホについては、よく知られたエピソードがもうひとつあります。生前に売れた絵はごくわずかで、世間からはほとんど評価されないまま生涯を終えたと言われています。もし当時、「上手に、正確に描けているか」という基準だけで評価されていたら、ゴッホの絵はきっと見過ごされていたことでしょう。けれど時代が下るにつれ、その絵の中にある独自の色使いや筆致そのものが、かけがえのない価値として見直されていきました。「正しさ」の外側にあるものが、後になって強い輝きを持つことがある。それは、絵という表現の面白いところだと思います。

ピカソが遺したとされる、ある言葉

この話をするときに、よく語られるピカソのエピソードがあります。ピカソは若い頃、写実的な絵の技術をしっかり身につけた画家でした。デッサンの実力は高く評価されており、正確に、写真のように描く力を持っていたと言われています。

そのピカソが晩年、こんな趣旨の言葉を残したと広く知られています。「ラファエロのように描くのに4年かかったが、子どものように描くには一生かかった」――。ラファエロとは、ルネサンス期に活躍した、写実の完成形とも言われる巨匠です。つまりピカソは、「お手本どおりに、正確に、上手に描く技術」は比較的早く身につけられたけれど、子どもが持っている「自由に、思うままに描く力」を取り戻すことのほうが、はるかに難しかったと言っているのです。

※このエピソードは長年にわたって語り継がれてきたものですが、発言の正確な原典や状況については諸説あり、断定はできません。それでも、多くの画家や美術教育の場で繰り返し引用されてきたのは、この言葉が持つ本質が、多くの人の実感と重なるからだと思います。

子どもは、誰に教わったわけでもないのに、太陽を紫に塗ったり、家族の顔を画用紙いっぱいに大きく描いたり、目に見えたものではなく心に残ったものを描いたりします。そこには「正しさ」への迷いがありません。大人になり、技術を身につければ身につけるほど、私たちは「こう描かなければ」「これはおかしい」という物差しを自分の中に増やしていきます。ピカソほどの巨匠でさえ、その物差しを手放して、子どものように自由に描く感覚を取り戻すのに、一生を費やしたというのです。

「上手さ」と「その子らしさ」は、別の軸

ここで改めてお伝えしたいのは、「上手に描けるかどうか」と「その子らしい絵かどうか」は、そもそも比べる軸が違うということです。縦軸と横軸くらい、まったく別のものさしなのです。

お子さんが「下手だから」と落ち込んでいるとき、実際に起きているのは「見本や写実の基準でうまく描けなかった」ということかもしれません。けれどそれは、その子が心に感じたこと・見た世界を表現する力とは、まったく別の話です。空を紫に塗った子は、写実という物差しでは評価されにくいかもしれませんが、「その子にはそう見えた」「その色を選びたかった」という感性は、誰にも否定できない、その子だけのものです。

  • 見本どおりに描けた → 「正確に描く力」が育っている
  • 見本とは違う描き方をした → 「その子らしい感じ方」が表れている

どちらも、否定するものではなく、それぞれに価値のある力です。この二つを混同して、「見本と違う=下手」というひとつの結論にしてしまうと、子どもは自分の感じ方そのものにフタをするようになってしまいます。

学校教育が悪いわけではありません

ここで誤解してほしくないのですが、学校の図工・美術の授業や、そこでの評価の仕組みが「悪いもの」だとは考えていません。決められたテーマの中で、道具の使い方や技術を学んだり、みんなで同じ課題に取り組む中で工夫を発見したりすることも、子どもの成長にとってかけがえのない経験です。集団の中で一定の基準に沿って評価されるという経験自体、社会に出てからも必要な力の一つでしょう。

大切なのは、「評価されるための絵」と「自分を表現するための絵」、その両方があっていいのだと知っておくことだと感じています。学校では前者を中心に学び、それとは別に、誰にも採点されない場所で、思うままに手を動かせる時間があってもいい。その両方があってはじめて、子どもは「絵にはいろんな楽しみ方がある」ということを、自然と体で覚えていくのではないでしょうか。

もし今、お子さんが「絵が下手」と思い込んでいるとしたら、それは「見本と違う描き方をしただけ」かもしれません。その事実に気づけるだけでも、声のかけ方は変わってくるはずです。「上手だね」ではなく、「その色、どうして選んだの?」「ここ、どんな気持ちで描いたの?」――そんな問いかけひとつで、子どもは自分の絵を否定されたのではなく、興味を持ってもらえたのだと感じられます。

おうちでできる、声かけのヒント

とはいえ、いざ声をかけようとすると、何を言えばいいのか迷ってしまうものです。ここでは、日常の中で意識しやすい問いかけの例をいくつかご紹介します。

  • 「上手だね」だけでなく「これ、どうやって描いたの?」と過程を聞いてみる
  • 色や形の理由を否定せず、「どうしてこの色にしたの?」と興味を向ける
  • 他の子の絵と比べる言葉を、家庭ではできるだけ使わない
  • 「上手・下手」より先に、「楽しかった?」を聞いてみる
  • 飾る・写真に残すなど、完成した絵そのものを大事にする姿を見せる

どれも特別なことではなく、ちょっとした言葉の選び方の違いです。けれどこの積み重ねが、「絵は正しく描かなければいけないもの」から「絵は自分の気持ちを表すもの」へと、子どもの中の絵に対するイメージを少しずつ変えていきます。おうちの時間だけで完結させようとしなくても大丈夫です。学校とは違う空気の中で、思いきり手を動かせる場所を、もうひとつ持っておくという選択肢もあります。

poppy quest 造形クラブが大切にしていること

poppy quest の造形クラブでは、「上手に描く」ことを目標にはしていません。大切にしているのは、正解より、自分の答えを、という考え方です。

クラブの時間には、「こう描いてね」というお手本を先に見せることはしません。素材やテーマに触れながら、その子の中から自然に出てくる形や色を、そのまま受け止めることを何より大事にしています。空を紫に塗っても、顔の位置が実際とは違っても、「そう感じたんだね」「その色、いいね」と、まずは受け取る。誰かと比べたり、正しさで採点したりすることはありません。

もちろん、絵の具の混ぜ方や道具の扱い方など、技術的なことも作家や作り手でもあるスタッフが必要に応じて伝えます。ただそれは「こう描かなければいけない」という縛りではなく、「もっと自由に表現するための手段」として渡すものです。技術は、子どもらしさを消すためではなく、子どもらしさをより遠くまで運ぶために使ってほしいと考えています。

造形クラブの体験レッスンは3,000円(画材費込み)です。月謝プランなど詳しくは、造形クラブのページをご覧ください。学校の授業とはまったく違う時間の使い方の中で、「上手・下手」から離れて絵と向き合う時間を、一度体験してみていただけたらうれしいです。お子さんが「わたしの絵、これでいいんだ」と思えるきっかけになれば、それに勝るものはありません。

まとめ

子どもが「絵が下手」と落ち込んでいるとき、実は上手・下手そのものが問題なのではなく、「正しさ」という一本の物差しだけで自分を測ってしまっていることが多いように思います。ゴッホやピカソの絵が、正確さの基準を超えたところで人の心を動かしてきたように、上手さとその子らしさは、比べるものではなく、どちらもあっていいものです。学校での学びを大切にしながら、それとは別に、誰にも採点されずに自由に描ける時間を持つこと。それだけで、お子さんの絵との向き合い方は、きっと変わっていきます。

poppy questでは、上手・下手をものさしにせず、お子さんがその子らしく手を動かせる時間を大切にしています。「うちの子、絵が苦手みたいで」というご相談も、まずは体験の時間の中でゆっくり見させていただきますので、お気軽にご相談ください。

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