「絵が苦手」と思っている子への、声のかけ方

「わたし、絵下手だから」「ぼく、絵苦手」――お子さんの口からそんな言葉がこぼれたとき、どう答えたらいいのか分からなくなったこと、ありませんか。
「そんなことないよ、上手だよ」と励ましてみても、なんだか響いていない気がする。かといって、なにも言わずにいると、絵を描く時間そのものを嫌いになってしまいそうで心配になる。せっかく好きだったはずのお絵かきから、じわじわと離れていく我が子を見るのは、親としてなんとも切ないものです。
この記事では、子どもが「苦手」と言い出す背景から、よかれと思ってやってしまいがちなNGな声かけ、そして今日からすぐに使える声かけの視点まで、順を追ってお伝えします。読み終えたころには、明日お子さんが同じ言葉を口にしたときに、迷わず返せる言葉が、きっと一つ二つ増えているはずです。
なぜ子どもは「苦手」と言うようになるのか
小さな子どもは、はじめから「絵が苦手」とは思っていません。クレヨンを握った手を自由に動かし、できあがったものを見て、ただ純粋に嬉しそうにしていた時期が、誰にでもあったはずです。うまい・下手という物差しは、実はあとから外側からやってくるものなのです。
美術教育の分野では、子どもの絵の発達段階についての研究が古くから積み重ねられており、9歳前後から、目に見えるとおりに描けているかどうかを気にしはじめる時期に入るといわれています。ちょうど、まわりの友だちの絵が目に入るようになり、大人からの評価も意識しはじめる年ごろです。この時期、子どもたちは自分の絵を他人の絵と比べはじめ、「思ったように描けない」というもどかしさを強く感じるようになります。
つまり「苦手」という言葉の裏には、こんな気持ちが隠れていることが多いのです。
- お友だちの絵と比べて、自分の絵が幼く見える気がする
- 「上手」「下手」という評価の物差しに、はじめて出会った
- 頭の中のイメージと、実際に描けたものとのギャップにもどかしさを感じている
- 誰かに笑われた、直された経験が心に残っている
「苦手」は才能がないという意味ではなく、比べることを覚えたという成長のサインでもあります。まずはそのことを、私たち大人が知っておくだけでも、子どもへの向き合い方はやわらかく変わっていきます。
よかれと思ってやりがちな、NGな声かけ
子どもを励ましたい一心で、実はちょっと逆効果になってしまっている声かけがあります。どれも、悪気があってのことではありません。むしろ、我が子を思うからこそ出てしまう言葉たちです。だからこそ、知っておくだけで避けられるものも多いのです。
「上手だね」だけで終わってしまう
「上手だね」は、いちばん出やすい褒め言葉です。けれど、それだけで終わってしまうと、子どもの中には「上手かどうかで評価される」という物差しだけが残ってしまいます。次に描いたとき、その物差しにあてはめて「これは下手だ」と自分で判定してしまう――そんな悪循環につながることがあります。
ついつい直してあげる
「ここはこう描くといいよ」と手を貸したくなる気持ち、よく分かります。ただ、その絵は子どもにとって、その瞬間の気持ちや発見がそのまま形になったものです。大人の手が入ることで、いつのまにか「正解」を求めるようになり、自分の中から出てきたものへの自信が薄れてしまうことがあります。
正解を教えてしまう
「空は青、太陽は赤」というように、決まった答えを教えてしまうのも要注意です。子どもが選んだ色や形には、その子なりの理由があることがほとんどです。それを「正しい色」に上書きしてしまうと、次からは自分で選ぶことをためらうようになってしまいます。
他の子と比べてしまう
「お姉ちゃんはもっと丁寧に塗れたよ」「お友だちの絵はすごいね」――比較のつもりがなくても、子どもは敏感にそれを感じ取ります。誰かと並べられた瞬間、絵は「競うもの」に変わってしまい、描くことそのものの楽しさが後回しになってしまいます。
結果を評価する言葉より、そのプロセスに興味を向けてもらえたと感じられる言葉のほうが、子どもの心にはずっと長く残ります。
明日から使える、声かけの視点
では、具体的にどんな言葉をかければいいのでしょうか。ポイントは「結果」ではなく「プロセス」に目を向けることです。むずかしく考えなくて大丈夫です。ちょっとした問いかけを増やすだけで、子どもとの会話は自然と変わっていきます。
- 「なんでこの色を選んだの?」――正解を求める質問ではなく、子どもの中にある理由を引き出す問いかけです
- 「ここ、どうやって描いたの?」――描き方や工夫そのものに興味を持っていることが伝わります
- 「これ、どんな気持ちで描いたの?」――絵の上手さでなく、そこに込めた気持ちに目を向けます
- 「ここ、いっぱい塗ったんだね」――評価せずに、事実をそのまま言葉にするだけでも十分な声かけになります
大切なのは、子どもの答えを否定しないことです。「え、空が緑なの?」と驚いて終わるのではなく、「どうして緑にしたの?」と続けてみてください。そこには、子どもなりのちゃんとした理由があることがほとんどです。夕方の空を思い出したのかもしれないし、緑という色そのものが好きだったのかもしれません。理由を聞いたうえで、「なるほど、そう見えたんだね」と受け止めてあげるだけで、子どもは「自分の見方を否定されなかった」という安心感を得ることができます。
すべての子どもは生まれながらのアーティストである。問題は、大人になってもアーティストであり続けられるかどうかだ。
これは、ある画家の言葉としてよく知られているものですが、まさにその通りだと感じます。子どもはもともと、上手い下手を気にせず自由に描く力を持っています。その力を消してしまわないように、私たち大人ができることは、評価者になるのではなく、いちばんの理解者になることなのかもしれません。
家庭でできる小さな工夫
特別なことをする必要はありません。おうちでできる、ちいさな工夫をいくつかご紹介します。
一緒に描いてみる
「教える」のではなく「一緒に描く」というスタンスが大切です。大人が隣で自由に描いている姿を見せるだけで、子どもは「うまく描かなくてもいいんだ」と感じられます。むしろ、大人が下手だと思っているものを楽しそうに描いている姿は、子どもにとって何よりの安心材料になります。
描いたものを飾ってあげる
冷蔵庫や壁に貼るのはもちろん、ちょっと額に入れてみたり、日付を書いて残しておいたりするのもおすすめです。「飾られる」という経験は、子どもにとって「自分の絵には価値がある」と感じられる、何よりのメッセージになります。
比べない
きょうだいや友だちの絵と並べて評価しないこと。そして、去年の自分の絵とも、無理に比べさせないこと。「前より上手になったね」という言葉も、悪気はなくても評価の物差しを持ち込んでしまいます。それよりも「前と違う色を使ったね」というように、変化そのものを面白がる言葉のほうが、子どもの心には優しく届きます。
「描く」以外の関わり方も用意しておく
絵を描くこと自体に苦手意識が強い時期は、無理に画用紙に向かわせなくても大丈夫です。粘土をこねる、はさみで紙を切る、色紙を貼り合わせるなど、「うまい・下手」がそもそも問われにくい遊びを間に挟んでみてください。手を動かす楽しさそのものを思い出せると、絵への苦手意識も自然とやわらいでいくことがあります。
比べる相手は、他の誰かではなく、その子自身の「描きたい」という気持ちだけでいい。そう思えると、親としての声かけも、ずいぶん肩の力が抜けるのではないでしょうか。
NGな声かけとおすすめの声かけ、ひと目でくらべると
ここまでお伝えしてきた内容を、場面ごとに簡単に整理してみます。とっさに言葉が出てこないときは、この表を思い出してみてください。
| 場面 | やってしまいがちな声かけ | おすすめの声かけ |
|---|---|---|
| 絵を見せてくれたとき | 「上手だね」で終わる | 「これ、どうやって描いたの?」 |
| 見慣れない色を使っているとき | 「空は青だよ」と直す | 「なんでこの色にしたの?」 |
| 形が思うように描けていないとき | 手を出して描いてあげる | 「ここ、もう少しどうしたい?」と聞く |
| きょうだいや友だちと並んだとき | 「お姉ちゃんの方が上手」 | 「これはこの子らしい絵だね」 |
場面別Q&A ―― こんなときどうする?
実際にお話をうかがっていると、保護者の方から寄せられるお悩みには、いくつか共通するパターンがあります。ここでは、よくある場面をいくつか取り上げてみます。
Q. 「もう描きたくない」と言われてしまいました
A. 無理に描かせようとしなくて大丈夫です。まずは「描かない」という選択も受け止めてあげてください。そのうえで、絵の具や粘土など、道具そのものを一緒に触ってみたり、誰かの絵を眺めながらおしゃべりしてみたりするだけでも、少しずつ気持ちがほぐれていくことがあります。「描かせる」より「関わり続ける」ことを意識してみてください。
Q. 幼稚園や学校で先生に直された経験があるようです
A. 誰かに直された経験は、思っている以上に子どもの心に残ります。まずは「そう感じたんだね」と、その子の気持ちをそのまま受け止めてあげてください。そのうえで、おうちでは「ここでは自由に描いていいんだよ」と、安心できる場所があることを伝えてあげると、少しずつ自信を取り戻していくことがあります。
Q. きょうだいの絵といつも比べてしまいます
A. これは、多くのご家庭で起こりがちなことです。悪気なく「お兄ちゃんはこう描いたよ」と口にしてしまうこと、ありますよね。もし言ってしまったなと思ったら、そのあとに「でも、この子の描き方も好きだな」と付け加えるだけでも、伝わり方はずいぶん変わります。完璧に言い換えようとせず、気づいたときに軌道修正すれば十分です。
Q. 褒めようとしても、言葉が「上手だね」しか出てきません
A. これは本当によくあるお悩みです。無理に語彙を増やそうとしなくても大丈夫、まずは「質問」に置き換えてみるのがおすすめです。褒め言葉を探すかわりに「これはどこが気に入ってる?」と聞いてみると、子ども自身が自分の絵のいいところを言葉にしてくれます。答えを大人が用意するのではなく、子どもに語ってもらう。それだけで、声かけのバリエーションはぐっと増えていきます。
造形クラブでの指導で大切にしていること
poppy questの造形クラブでも、いちばん大切にしているのは「正解より、自分の答えを」という考え方です。作家や作り手でもあるスタッフが子どもたちと接するとき、上手に描けたかどうかよりも、その子がどんな理由でその色を選び、どんな気持ちでその形をつくったのかに、まず耳を傾けるようにしています。
正解を教えるのではなく、その子だけの答えを一緒に見つけていく。それが、造形クラブという場所でずっと大切にしてきた向き合い方です。ときには、その子の絵を否定せずに「どうしてこうしたの?」と問いかけることから、思いがけない発想やストーリーが飛び出してくることもあります。そんな瞬間に立ち会えることが、私たちにとってもいちばんの喜びです。
おうちで「苦手」という言葉を聞いてどう返そうか迷ったとき、教室という場が、子どもにとって「評価されない安心な居場所」になれたらと思っています。体験レッスンは3,000円(画材費込み)でお試しいただけます。月謝プランなど詳しくは、造形クラブのページをご覧ください。「まずは様子を見てみたい」という方も、どうぞ気負わずお越しください。
まとめ
子どもが「絵が苦手」と言うのは、才能がないからではなく、比べることを覚えた成長のあらわれです。「上手だね」で終わらせず、「なんでこの色にしたの?」と、その子の中にある理由に耳を傾けてみてください。否定せず、直さず、比べない。それだけで、子どもは「自分の描いたものを認めてもらえた」と感じることができます。
完璧な声かけができなくても大丈夫です。今日この記事で持ち帰っていただいた問いかけの言葉を、明日、お子さんが絵を見せてくれたときに、一つだけでも使ってみてください。それだけで、親子の会話はきっと、いつもより少しやわらかいものになるはずです。poppy questでは、そんな「声かけに迷う」保護者の方のお気持ちに寄り添いながら、お子さんが自分らしく表現できる場づくりを大切にしています。お気軽にご相談ください。
poppy quest(ぽぴくえ)造形クラブ
学校でも、おうちでもない。
三軒茶屋のギャラリーにある、ひみつきち。
子どもの「これが好き」が見つかる、もっと絵が好きになる場所です。
毎週日曜、上手さだけでは評価しません。
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武蔵野美術大学 油絵学科卒の現役作家が、
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- 毎週日曜 10:00〜11:30
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poppy quest

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