オフィスに絵を飾ると何が変わる?|生産性・来客の印象・企業文化への効果

「オフィスに絵を飾ると、なんだかいい雰囲気になりそう」——そんな漠然とした期待はあっても、いざ予算をかけるとなると、二の足を踏んでしまう。そんな総務担当者や経営者の方は、少なくないのではないでしょうか。
「本当に効果があるの?」「気分の問題であって、数字には表れないのでは」。そう疑ってしまうのは、とても自然なことだと思います。何かを導入するときに、根拠のないまま決めるのは、誰だって心もとないものです。
この記事では、そんな半信半疑な気持ちに寄り添いながら、実際に行われた研究のデータと、これまで一般的に語られてきた「アートのある職場」の効果を、できるだけ誇張せずにお伝えしていきます。読み終えたときに、「なんとなく気になっていたけれど、少し前向きに考えてみようかな」と思っていただけたら嬉しいです。
先にお断りしておくと、この記事は「絵を飾れば業績が伸びます」というような、景気のいい話をするものではありません。むしろ逆で、「どこまでが根拠のある話で、どこからが一般論なのか」を、なるべく切り分けてお伝えしたいと思っています。数字に厳しい経営者の方にこそ、落ち着いて読んでいただけたらうれしいです。
「アートと生産性」を調べた、ある共同研究
実は、オフィスにアートを飾ることの効果について、まじめに検証した研究があります。アートのレンタル・販売サービスを手がける株式会社Casieと、京都工芸繊維大学による共同研究です。
この研究では、大きくわけて二つの調査が行われました。ひとつは、6つの会議室を使った「印象評価調査」。アートが飾られた空間と、そうでない空間で、そこにいる人がどのような印象を受けるかを比較したものです。もうひとつは、社員99名を対象にした「生産性の測定実験」。参加者に計算課題に取り組んでもらい、その回答数をもとに、作業のスピードにどのような変化があるかを調べています。
その結果として報告されているのが、「アート展示が生産性(計算スピード)に良い影響を及ぼす可能性が示唆された」という内容です。
| 調査項目 | 内容 |
|---|---|
| 実施主体 | 株式会社Casie × 京都工芸繊維大学(共同研究) |
| 印象評価調査 | 会議室6室を使用し、アートの有無による空間の印象の違いを比較 |
| 生産性測定実験 | 社員99名が参加。計算課題への回答数をもとに、作業スピードの変化を確認 |
| 報告された結果 | アート展示が生産性(計算スピード)に良い影響を及ぼす可能性が示唆された |
| あわせて触れられた点 | 明度の低い(暗めの)絵画は、生産性に良い影響を及ぼさない可能性がある |
数字の裏づけをすべて確認できるわけではありませんが、「感覚的にいい気がする」で終わらせず、実際に会議室と社員を使って調べてみた、という取り組みそのものに、まず価値があるように思います。オフィスとアートという組み合わせは、まだ研究の蓄積が多い分野とはいえません。そのなかで、こうした調査が行われ、結果が公表されていることは、判断材料のひとつとして、覚えておく価値があるのではないでしょうか。
ここで、少し立ち止まってお伝えしておきたいことがあります。この結果は、あくまで「示唆された」「可能性がある」という、慎重な言い回しで発表されているものだということです。「絵を飾ったら生産性が何パーセント上がった」というような、具体的な数値や、統計的にはっきりとした差があったという情報までは、公開されていません。
つまりこの研究が教えてくれるのは、「アートがある職場のほうが、ない職場より明らかに数字が良くなる」という断言ではなく、「アートには、働く人の集中や気分に、良い方向にはたらきかける可能性がある」という、ひとつの手がかりなのだと思います。過大な期待をせず、かといって根拠のない話でもない——そのくらいの距離感で受け取っていただくのが、いちばん誠実な向き合い方ではないでしょうか。
もうひとつ、この研究で触れられている興味深い点があります。それは、明度の低い(暗めの)絵画については、生産性に良い影響を及ぼさない可能性がある、とされていることです。これは、絵を選ぶときの参考になる、とても実用的な示唆だといえるでしょう。この点については、後ほど「絵を選ぶときに気をつけたいこと」の章で、あらためて触れます。
生産性だけじゃない、絵がオフィスにもたらすもの
ここまで、生産性という切り口から研究結果をご紹介してきました。ですが、オフィスに絵を飾ることの意味は、計算課題の回答数だけでは、きっと語りきれません。ここからは、一般的によく語られている、生産性以外の効果についてお話しします。
来客や採用候補者に伝わる、無言のメッセージ
エントランスや応接室に足を踏み入れた瞬間、人は言葉よりも先に、空間そのものから何かを受け取っています。整った棚、丁寧に選ばれた椅子、そして壁にかけられた一枚の絵。そうしたものすべてが、「この会社は、細部まで気を配っている」という印象につながっていきます。
先ほどご紹介した研究の中にも、会議室を使った「印象評価調査」が含まれていました。アートのある空間とない空間とで、そこに居合わせた人が受け取る印象に違いが生まれること自体は、多くの人の実感としても、納得しやすいのではないかと思います。取引先との商談や、採用面接の場でも同じことがいえるでしょう。壁の一枚が、言葉にする前の第一印象を、静かに支えてくれているのかもしれません。
企業文化やブランディングを、そっと発信する
どんな絵を選ぶか、どこに飾るか——そこには、飾る側の価値観が、少なからず表れます。地元の作家の作品を選ぶ会社もあれば、社員が思わず足を止めるような、遊び心のある一枚を選ぶ会社もあります。それは単なる装飾ではなく、「私たちは、こういうことを大切にしています」という、ことばにしなくても伝わるメッセージになります。
社史や理念をパネルにして貼り出すよりも、一枚の絵のほうが、ずっと自然に、その会社らしさを物語ってくれることがあります。効率や数字だけでは測れない、企業文化という目に見えないものを、絵はやわらかく代弁してくれるのかもしれません。
働く人の心に、そっと効くもの
毎日、同じ席に座って、同じ壁を見ながら仕事をする。その景色の中に、ふと目を留められる一枚があるかどうかは、思っている以上に、日々の気分に影響しているのではないでしょうか。
張り詰めた会議の合間、ひと息つきたいとき、視線の先に季節を感じさせる風景や、あたたかみのある色合いの絵があるだけで、少し肩の力が抜ける——そんな感覚を、経験したことがある方もいらっしゃるかもしれません。数値化はむずかしくても、「そこにいる時間が、少しだけ心地よくなる」という効果は、多くのオフィスづくりの現場で、経験的に語られてきたことでもあります。
「この会社で働いていてよかった」につながる、小さな積み重ね
近年、オフィスのつくり方を考えるときに、単なる効率だけでなく、働く人がその場所をどう感じるか、という視点が重視されるようになってきました。観葉植物を置いたり、休憩スペースを充実させたり、といった取り組みも、その流れのひとつです。絵を飾るということも、同じ文脈で語られることが増えてきています。
もちろん、一枚の絵があるだけで、離職率が下がるとか、社員満足度が劇的に変わるとか、そこまで言い切れるだけの根拠は、今のところありません。ですが、「この会社は、働く環境をちゃんと考えてくれている」と感じてもらえる小さな積み重ねのひとつとして、絵という存在は、無理なく取り入れやすいものだと思います。家具を総入れ替えするような大がかりな模様替えをしなくても、壁の一角を変えるだけで、空間の印象をやわらげることができるからです。
絵を選ぶときに、気をつけたいこと
ここまでお読みいただいて、「それなら一度、検討してみようかな」と思ってくださった方に向けて、絵を選ぶときのポイントを、いくつかお伝えします。
明るい色調の作品を、選択肢の中心に
先ほどご紹介したCasieと京都工芸繊維大学の研究では、明度の低い、つまり暗めの色合いの絵画については、生産性に良い影響を及ぼさない可能性がある、という点にも触れられていました。重厚感やシックな雰囲気を求めて、あえて暗めの絵を選びたくなる場面もあるかもしれませんが、日常的に多くの時間を過ごすオフィス空間においては、明るい色調の作品のほうが向いている場合がある、ということは、ひとつ覚えておいていただきたいポイントです。
とはいえ、これも「暗い絵は絶対にだめ」という話ではありません。飾る場所や、そこで過ごす時間の長さ、部屋の照明などによっても、感じ方は変わってきます。エントランスのように滞在時間が短い場所と、社員が長時間を過ごすワークスペースとでは、選び方を変えてみるのも、ひとつの方法かもしれません。
「誰のための一枚か」を、少しだけ考えてみる
絵を選ぶとき、担当者おひとりの好みだけで決めてしまうよりも、「この空間を、誰が、どんなふうに使うのか」を、少しだけ思い浮かべてみることをおすすめします。来客が多いエントランスなのか、社員が集中して作業をするデスク周りなのか、それとも雑談が生まれる休憩スペースなのか。場所によって、心地よく感じる絵は変わってきます。
- 来客対応の多い場所には、季節感や地域性を感じさせる、あたたかみのある一枚を
- 集中して作業する場所には、視界の端でそっと寄り添うような、主張しすぎない一枚を
- 休憩スペースには、思わず会話のきっかけになるような、少し遊び心のある一枚を
また、一度飾ったら終わり、と決めつけずに、季節や社内の雰囲気の変化にあわせて、少しずつ入れ替えていくという考え方もあります。壁の景色が変わることは、そこで働く人にとって、思っている以上に、小さな新鮮さをもたらしてくれるものです。
絵柄やテーマは、なるべく穏やかなものを
明るさに加えて、描かれている題材にも、少し気を配ってみるとよいかもしれません。荒々しい構図や、見る人によって受け取り方が大きく分かれるような強いモチーフは、個人の部屋であれば個性として楽しめても、不特定多数の人が行き交うオフィスでは、落ち着かない気持ちにさせてしまうことがあります。
その点、花や緑、風景、静物といった、季節や自然を感じさせるモチーフは、見る人を選びにくく、オフィスという公共性の高い空間にはなじみやすい傾向があります。もちろん、企業のブランドイメージによっては、あえて個性の強い作品を選ぶという選択もありますが、迷ったときには「多くの人が、なんとなく心地よく感じられるかどうか」を、ひとつの基準にしてみてください。
大きさと飾る高さも、意外と大事
どんなに作品自体が魅力的でも、壁の広さに対して小さすぎたり、目線から大きく外れた高さに飾られていたりすると、その存在にすら気づいてもらえないことがあります。人が椅子に座った状態、あるいは通路を歩いている状態で、自然と視界に入る高さを意識するだけで、同じ一枚でも、伝わり方が大きく変わってきます。
迷ったときは、実際にその場所に立ってみて、目の高さのあたりに紙を貼ってみるなど、簡単なシミュレーションをしてみるのもおすすめです。飾ってから「思っていたのと違った」とならないよう、事前にイメージをすり合わせておくと安心です。
まとめ 半信半疑から、ひとまず一歩
ここまで、Casieと京都工芸繊維大学の共同研究をはじめ、オフィスにアートを飾ることの効果について、できるだけ誇張せずにお伝えしてきました。「生産性が劇的に上がる」という魔法のような話ではなく、「良い方向にはたらきかける可能性がある」という、控えめだけれど確かな手がかりがあること。そして、来客への印象や、企業文化の発信、働く人の心への効果など、数字にはあらわれにくい価値が、いくつも重なっていること。それが、この記事でお伝えしたかったことです。
「なんとなく気になっていたけれど、確信が持てなかった」という方こそ、まずは一枚から、小さく試してみるのがよいのかもしれません。会議室のひとつ、エントランスの一角——そのくらいの規模からはじめても、空間の印象は、思っている以上に変わっていくものです。
poppy questでは、油絵作家でもあるスタッフが、オフィスの雰囲気や働く人たちの様子をうかがいながら、一枚一枚の作品についてじっくりお話しさせていただいています。「効果があるかどうか、正直まだ迷っている」という段階からでも大丈夫です。まずは空間に合いそうな作品をご覧いただくところから、お気軽にご相談ください。
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