夕暮れの子ども部屋で学習机に座り窓の外をぼんやり見つめる子どもの後ろ姿、机には閉じたスケッチブックと使われていない色鉛筆

急に絵を描かなくなった小学生|「9歳の壁」の時期に起きていること

夕暮れの子ども部屋で学習机に座り窓の外をぼんやり見つめる子どもの後ろ姿、机には閉じたスケッチブックと使われていない色鉛筆

「幼稚園の頃は、画用紙が足りなくなるくらい毎日描いていたんです。それが小学校3年生くらいから、ぱたっと描かなくなって」

造形クラブのご相談で、この時期にいちばん多く耳にするお話です。続けて、こんな言葉が出てくることもよくあります。「たまに『描いてみたら』と言うと、『どうせ下手だから』『へたくそだもん』って。あんなに楽しそうだったのに、どうしてしまったんだろうって」。

お子さんの絵が急に食卓や冷蔵庫から消えると、親としては少し寂しく、そして不安になります。何か嫌なことがあったのだろうか。自信をなくすようなことを言ってしまっただろうか。絵の道を閉ざしてしまったのだろうか、と。

先にお伝えしたいのは、その変化の多くは「後退」ではないということです。むしろ、お子さんの中で何かが育った結果として、絵から少し距離を取っている。この記事では、9歳前後に子どもの中で起きていることを、発達段階の話をまじえながら整理し、そのうえで家庭でできるそっとした関わり方を考えてみます。「描かせる」ための記事ではありません。「待つ」ための記事です。

この時期の絵の変化は、多くの家庭で似たかたちで起こります。ある日突然というより、じわじわと描く量が減り、誘っても乗ってこなくなり、やがて「絵は好きじゃない」と口にするようになる。順番はだいたい決まっています。だからこそ、その背景を知っておくと、必要以上にあわてずにすみます。

「9歳の壁」と呼ばれる時期に起きていること

小学3〜4年生ごろ、子どもの心と頭には大きな変化が訪れます。子育て情報サイトのHugKum(ハグクム)の「9歳の壁・10歳の壁」に関する記事では、この時期に「目に見えないことを頭の中で考える」抽象的な思考が求められるようになり、学習面でつまずきを感じる子が増えると説明されています。同じ記事では、子どもが「自己肯定感を持ちはじめる一方で、自分に対して劣等感を持ちやすくなる」こと、そして「肯定的な感情と否定的な感情を同時に持つ」ようになることが指摘されています。アンケートでは、およそ3割の家庭が「9歳の壁」を感じたと答えたそうです。

かみくだくと、こういうことです。それまでの子どもは、自分の絵を「これでいい」とまるごと受け入れていました。ところが9歳ごろになると、頭の中に「本当はこう見えているはずだ」という理想像を思い描けるようになります。そして、その理想像と、実際に自分の手が描いた線を、同時に見比べられるようになる。「思っていたのと違う」というギャップが、はっきり見えるようになるのです。

「見たまま描けない」と気づけたことは、目が一歩先に育った証拠です。手はまだそこに追いついていないだけで、見る力のほうが先に伸びた状態だと考えると、絵から離れる理由も腑に落ちてきます。

絵の発達段階から見ると、9歳は「写実の入り口」

子どもの絵には、年齢とともに移り変わっていく段階があることが知られています。美術教育の分野で長く参照されてきたローウェンフェルドの区分を紹介している造形教室 and-lab の「お絵描きの発達段階」の解説によると、おおよそ次のように進みます。

年齢の目安段階この時期の絵の特徴
1〜4歳ごろなぐりがき期線を引く運動そのものが楽しい。後半で「これは電車」と意味づけが始まる
4〜7歳ごろ前図式期頭から手足が出た「頭足人」など、記号のような描き方
7〜9歳ごろ図式期地面を表す線が引かれ、ものの描き方が自分なりのパターンとして安定する
9〜11歳ごろ写実の芽生えの時期細部や奥行き、男の子と女の子の描き分けなど、「見えるとおり」に近づけようとする
11〜13歳ごろ擬似写実期遠近法や陰影に関心が向かう。自意識も強くなる

同じ解説では、9〜11歳の「写実の芽生えの時期」から、その先の時期にかけて、自意識が芽生えることで絵を描かなくなる子も出てくる、と率直に触れられています。つまり、この時期に絵から遠ざかること自体は、めずらしいことでも心配な兆候でもなく、発達の流れの中でよく見られる姿だということです。

大切なのは、この解説があわせて書いているひとことです。発達段階はあくまで平均であって、進みがゆっくりでも「遅れている=問題がある」わけではない、と。お子さんが早く写実に向かっても、のんびり図式期の絵を楽しんでいても、どちらも自然なことです。

「下手だから描かない」の奥にある気持ち

「どうせ下手だから」という言葉は、聞くとどきっとします。けれど、この言葉をそのまま「自信をなくした」と受け取ると、少し見え方を誤るかもしれません。

この年ごろの子が「下手だ」と言うとき、その裏には「自分の中に、もっとちゃんと描きたいという基準ができた」という事実があります。基準がなければ、下手だとも思いません。描かなくなったのは、絵から離れたのではなく、絵と本気で向き合いはじめたサインかもしれません。

絵の具メーカーであるサクラクレパスも、子どもの絵の見方について「子どもの絵の発達」に関する解説の中で、絵に「テクニックを求めて出来・不出来を見る」のではなく、「子どもたちが描いた絵から子どもの心を見る」ことを大人に呼びかけています。上手いか下手かという物差しを、いったん脇に置く。それが、この時期の子と絵の話をするときの出発点になります。

また、9歳前後は友だちとの関係が家族より前に出てくる時期でもあります。「あの子のほうがうまい」「見せたら笑われるかも」という比較の目が、教室でも家でも生まれます。絵をやめる理由が、絵そのものではなく、まわりの視線にあることも少なくありません。低学年の頃は誰も気にしなかった「上手い順」が、この時期になると子ども同士のあいだで自然と共有されはじめ、その順位に自分を当てはめてしまうのです。

さらに、学習面でのつまずきがこの時期に重なることもあります。算数の文章題や、目に見えないものを頭の中で扱う勉強が急に難しくなり、「自分はできない子かもしれない」という気分が、勉強以外の場面にも広がっていく。絵をやめたのは絵の問題ではなく、その時期の自信全体が少し沈んでいるだけ、というケースもあります。そう考えると、絵だけを取り出して「また描きなさい」と言うより、生活全体でうまくいっている部分に光を当てるほうが、結果的に早く絵に戻ってきたりします。

家庭でできる、そっとした関わり方

この時期に無理をさせると、絵は「できないことを確認させられる時間」になってしまいます。あわてて絵画教室を探す前に、家でできることをいくつか挙げてみます。どれも「やらせる」ことではありません。

1. 「上手だね」より「どうやって描いたの?」

仕上がりを褒める言葉は、うれしい反面、「次もうまく描かなきゃ」というプレッシャーにもなります。それよりも、過程に興味を持つ質問が効きます。「この色、どうやって作ったの?」「ここだけ暗いのはなんで?」「描いてて、どこがいちばん楽しかった?」。「上手」は絵につける点数、「どうやったの」はその子の中身を聞く言葉です。

2. 描き方を「教えて直す」ことは、いったん我慢する

「顔はもっと縦長だよ」「影はこっちにできるよ」と教えたくなりますが、この時期の子は自分の見え方と手のズレにいちばん敏感になっています。そこへ大人の正解が入ると、「やっぱり自分のは違うんだ」と受け取りやすい。技術的な助言は、本人が「どう描いたらいい?」と聞いてきたときだけで十分です。

3. きょうだいや友だちの絵と、横に並べない

「お姉ちゃんはこう描いてたよ」と悪気なく言うだけで、比較のスイッチが入ります。作品は一枚ずつ、その子とだけ話す。当たり前のようでいて、家の中では意外と難しいことです。

4. 「絵」でなくてもいい入り口を残しておく

平面の絵がしんどいなら、粘土や工作、写真、鑑賞でもかまいません。美術館で「どれがいちばん好き?」と聞くだけでも、見る力は動きます。手を止めている間も、目は育ち続けています。

5. 描いた絵は、写真で残しておく

いま描いていなくても、また描きたくなる日が来ます。そのとき、幼い頃の絵が手元に残っていると、「昔はこんなふうに描いてたんだ」と本人が笑って眺められます。過去の自分を否定せずにいられることは、次の一歩を軽くします。

この時期に必要なのは、上達させることではなく、絵を嫌いにさせないこと。手が止まっている間も、目と心は前に進んでいます。

造形クラブでは、この時期の子とどう関わっているか

poppy quest(ぽぴくえ)の造形クラブは、東京・三軒茶屋のギャラリーを教室にした、毎週日曜10:00〜11:30の少人数クラスです。対象は年長から小学生、各回6名まで。講師は武蔵野美術大学 油絵学科を卒業し、いまも制作を続けている油絵作家です。ちょうど「9歳の壁」にさしかかる子も、よく通ってきます。

90分の流れは、対話30分・制作60分・振り返り、という組み立てです。はじめの30分は、いきなり描きません。「どんな音がしそう?」「その色、どんな気持ち?」と話しながら、頭の中にイメージをためていきます。この時間があると、「見たまま描けない」で固まっていた子も、「正しく写す」から「自分がどう感じたかを出す」へと、手がかりを持ちかえられます。

制作中に「こう描きなさい」と言うことはありません。上手い・下手でも評価しません。大事にしているのは「正解より、自分の答え」という考え方です。写実に近づけたくて苦しんでいる子には、そのこだわり自体を「よく見ている証拠だね」と受けとめます。最後の振り返りで、自分の作品について自分のことばで話す。ここで「できなかったところ」ではなく「やってみたところ」に光が当たると、次の日曜も来たくなります。

こうした時間を通して育てたいのは、絵のうまさそのものよりも、自己表現・主体性・粘り強さといった、数字にしにくい力です。9歳前後は、その力がいちばん揺れる時期でもあり、いちばん伸びる時期でもあります。

体験レッスンは3,000円(画材費込み)でご参加いただけます。曜日・対象・持ち物など、くわしくは造形クラブのページをご覧ください。

つい言ってしまう言葉と、言いかえの例

関わり方を頭ではわかっていても、いざ我が子が「描かない」と言うと、つい別の言葉が出てしまうものです。よくある声かけと、その言いかえを並べてみます。責めるための表ではなく、迷ったときの手がかりとして見てください。

つい言ってしまう言いかえてみると
「せっかく上手なんだから、もったいないよ」「描きたくなったら道具はここにあるからね」
「下手じゃないよ、上手だよ」「そう感じてるんだね。どのへんが気になるの?」
「◯◯ちゃんは続けてるのに」「あなたはいま、何をしてる時間がいちばん楽しい?」
「これだけお金かけたんだから」「一回お休みして、また気が向いたら考えよう」
「ちゃんと最後まで描きなさい」「途中でやめてもいいよ。残しておけば続きから描けるよ」

右側の言葉に共通しているのは、「描くかどうかの主導権を、子ども本人に返している」ことです。大人が焦って引っぱるほど、絵は「やらされるもの」に近づいてしまいます。

「いつまた描くの?」に、期限はありません

再開の時期は、子どもによって本当にばらばらです。数か月で戻ってくる子もいれば、中学生になってから急にまた描きはじめる子もいます。写実期をゆっくり越えていく子は、いったん「マンガの模写」や「好きなキャラクターの絵」から戻ってくることも多いです。それは立派な再開です。「本物みたいに描きたい」という気持ちが、手が届く題材で満たされていく過程だからです。

親にできるのは、期限を決めないことと、道具を捨てないことくらいかもしれません。クレヨンや画用紙が家のどこかにあって、いつでも手に取れる。その状態を保っておくだけで、子どもは「戻ってもいい場所がある」と感じられます。

おわりに|描かない時期も、絵を続けている時間です ☺️

急に絵を描かなくなったお子さんを見ると、「才能の芽を摘んでしまったのでは」と考えてしまいがちです。でも、9歳前後で起きているのは、たいてい逆のことです。見る力が育ち、理想が高くなり、その理想に手が追いつくまでのあいだ、いったん立ち止まっている。それだけのことも多いのです。

うまく描けないから描かない、その気持ちを責めないでいるだけで、子どもはいつでも絵に戻ってこられます。戻ってきたとき、少し見る目が育った状態で再開できるなら、その休みはむしろ良い時間だったといえます。

poppy questでは、「描かなくなった」時期のお子さんに、いま何を足すとよいかを一緒に考えます。急いで上達を目指すのではなく、絵を嫌いにならずに、その子のペースで写実期を越えていけるように。お気軽にご相談ください。

poppy quest(ぽぴくえ)造形クラブ

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武蔵野美術大学 油絵学科卒の現役作家が、
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  • 毎週日曜 10:00〜11:30
  • 年長〜小学生
  • 各回6名の少人数制
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