コンクールに出さない理由|子どもの絵と「賞」との距離

幼稚園や小学校から、コンクールの応募用紙を持ち帰ってくることがあります。「夏休みの宿題として一枚描いてきてください」と言われたり、園に貼り出された入選作を見て「うちの子の絵は選ばれなかったな」と、そっと胸のなかで思ったり。上手に描く子の絵が賞をとって、そうでない子の絵は返ってこない。親としてこれをどう受け止めればいいのか、迷ったことのある方は少なくないと思います。
poppy questの造形クラブでも、体験にいらした保護者の方から「コンクールには出さないんですか?」と聞かれることがあります。結論から言うと、わたしたちは基本的に狙っていません。ただ、これは「コンクールが悪い」という話ではありません。挑戦してみたい子にとっては、大きな意味のある経験になります。今回は、賞やコンクールとどう距離をとるかについて、現役の油絵作家として教室を運営している立場から、できるだけ穏やかに書いてみます。
児童画コンクールは、どういうものなのか
日本には、子ども向けの絵画コンクールがたくさんあります。たとえば全国児童画コンクールは、毎日新聞社と日本児童画振興会が主催し、文部科学省が後援する、応募総数が毎年およそ50万点にのぼる国内最大規模のものです。多くのコンクールは応募が無料で、画材メーカーや企業がスポンサーになり、子どもの情操教育を応援する目的で開かれています。地域の信用金庫や生命保険会社、スーパーマーケットが主催するものも多く、身近なところに応募先があります。
主催者側の説明を読むと、子どもの絵で評価されるのは「技術力」ではない、と繰り返し書かれています。大人にはない発想力、のびのびとした想像力、そして自分の感じたことを画面いっぱいに出す表現力。そうしたものを見たい、というのが多くのコンクールの建前です。実際、入選作を眺めると、写実的にうまい絵ばかりが並んでいるわけではなく、色や構図が大胆な絵もよく選ばれています。
だから、コンクールそのものを頭ごなしに否定する必要はない、とわたしは思っています。描くのが好きで、自分の絵を誰かに見てもらいたい、審査という舞台に立ってみたい。そういう気持ちが子ども自身のなかから出てきたなら、それは応援したい挑戦です。締め切りに向けて一枚を仕上げきる経験は、それ自体が力になります。
それでも、評価軸が「上手さ」に寄っていくと
気をつけたいのは、賞という結果が近くにあり続けると、子どもの意識がだんだん変わっていくことです。審査は減点法ではありませんが、選ばれる絵にはどうしても傾向が出ます。子どもは大人が思うよりずっと敏感で、「去年はこういう絵が金賞だったな」「先生はこっちの構図をほめたな」と、いつのまにか読み取ります。そして、自分が描きたいものより先に、「審査員が好きそうな絵はどれだろう」と考えはじめてしまうことがあります。
絵の指導を長く続けている団体のなかには、あえて作品をコンクールに出さない方針をとっているところもあります。芸術による教育の会のブログでは、その理由が二つ挙げられています。ひとつは、先生の側に「入選させたい」という気持ちが芽生えると、指導に熱が入りすぎて、子どもが自分でできない部分まで手を貸してしまい、いつのまにか「子どもがすごい」ではなく「指導した先生がすごい」作品になってしまうこと。もうひとつは、「なぜあの子の絵が選ばれて、自分の絵は選ばれなかったのか」に大人が明確に答えようとすると、その子のセンスそのものを否定することになりかねない、という点です。
美術には、算数のような一つの正解がありません。だからこそ、優劣をはっきりつける場面が増えると、子どもは「自分がいいと感じたもの」を自信をもって選べなくなっていきます。これは大人になっても残る感覚です。人前で「わたしはこれが好き」と言うのに、いちいち誰かのお墨付きが必要になってしまう。絵を描く時間で、その逆を育てたいというのが、わたしたちの考えです。
そもそも「上手い絵」とは何を指しているのか
大人が子どもの絵を見て「上手い」と言うとき、その中身はだいたい決まっています。形が実物に似ている、線がぶれていない、はみ出さずに塗れている、遠近感がある。つまり、写実に近づいているかどうかを見ていることが多いのです。けれど、子どもの絵の発達を追った研究では、写実的に描こうとする意識が強く出てくるのは小学校中学年以降で、それ以前の絵は「見えたとおり」ではなく「知っていること・感じたこと」を並べて描くのが自然な段階だとされています。
だとすると、低学年の絵を「写実に近いかどうか」で評価するのは、そもそも発達段階に合っていません。空が紫でも、お母さんの手の指が七本でも、それはまちがいではなく、その子の頭のなかの世界がそう見えているということです。コンクールの審査は基本的にそこを汲もうとしていますが、家庭や教室での日々の声かけが「もっと本物っぽく」に寄ってしまうと、子どもは自分の段階を飛び越えようとして苦しくなります。
賞との距離を考えることは、じつは「うちでは何を上手いと呼ぶか」を考え直すことでもあります。ていねいに時間をかけた、最後まで投げ出さなかった、誰かの真似ではなく自分で決めた。そういうものさしを家庭に一つ持っておくと、コンクールの結果に一喜一憂しすぎずにすみます。
賞は「目的」ではなく「結果」にとどめておく
整理すると、コンクールとの付き合い方は、誰が何のために出すのかで変わります。子どもが自分の意思で「出してみたい」と言い、大人はその挑戦に伴走するだけ。結果として賞をもらえたら一緒に喜ぶし、選ばれなくても「あの一枚を最後まで描ききったね」と過程をねぎらう。ここまでなら、コンクールはいい経験になります。
一方で、大人が「出しなさい」と言い、入選するために構図やモチーフを大人が決め、うまく描かせることが目的になっていく。ここが切り替わるポイントです。子どもの答えより、審査員の好みを先に考える習慣がつくと、絵は少しずつ窮屈になっていきます。
| 賞を目的にした関わり | その子の答えを大事にする関わり |
|---|---|
| 「入選しそうなテーマ」を大人が選ぶ | 「今いちばん描きたいもの」を本人が選ぶ |
| 去年の金賞作品に構図を寄せる | 去年とは関係なく、自分の見え方で描く |
| はみ出した色を「直そうか」と言う | 「どうしてこの色にしたの?」と聞く |
| 結果が出ないとがっかりを隠せない | 描ききった過程を一緒にふり返る |
| 次も「賞のために」描き続ける | 賞に関係なく、描きたいから描く |
年齢によっても、感じ方は変わります
おおまかな目安として、年中から年長さんくらいまでは、そもそも「賞」という概念があまりピンときていないことが多いです。この時期に大人が勝ち負けを持ち込むと、絵を描くこと自体が「評価される場」になってしまい、もったいないと感じます。
小学校中学年くらいになると、友だちの絵と自分の絵を比べる目が育ってきます。ここで「◯◯ちゃんは賞をとったのに」と横並びにされると、描くのをやめてしまう子もいます。逆に、この時期に「自分はこういう絵が描きたい」という軸が育っていれば、コンクールに出しても振り回されにくくなります。高学年で本人が明確に「挑戦したい」と言うなら、そのときに一緒に考えれば十分です。焦って低学年から賞を追いかける必要はない、というのがわたしの実感です。
造形クラブでは、どうしているか
poppy questの造形クラブは、東京・三軒茶屋のギャラリーを教室にしています。毎週日曜の10:00から11:30、対象は年長さんから小学生、各回6名までの少人数制です。講師は武蔵野美術大学の油絵学科を出た現役の油絵作家。最初の30分は対話、次の60分で制作、最後に振り返り、という流れの90分です。
この場では、上手い下手で作品を評価しません。「正解より自分の答えを」を合言葉に、自己表現・主体性・粘り強さといった、点数には出にくい力を育てることを大切にしています。だから、こちらから「このコンクールに出しましょう」と勧めることは基本的にしていません。方針として、賞を狙う教室ではないということです。
もちろん、子ども自身が「これ、コンクールに出してみたい」と言い出したときは止めません。応募の手続きを一緒に調べ、締め切りまでどう進めるかを相談し、伴走します。出したいと思ったその気持ちごと、その子の表現だからです。選ばれても選ばれなくても、教室での関わり方は何も変わりません。
なお、小学校受験でよく聞かれる巧緻性(こうちせい)の課題や、絵画・制作テストの対策については、うちではやっていません。合否のある試験に向けて「決められた時間で、決められたものを、減点されないように仕上げる」練習は、わたしたちが育てたい方向とは少し違うためです。ここは穏やかに、けれどはっきり線を引いています。ご家庭の方針で対策が必要な場合は、専門の教室のほうが力になれると思います。
園や学校とのあいだで、すれ違いを減らすには
「コンクールに出さない」と決めても、園や学校の方針で応募が半ば前提になっていることはあります。そういうとき、先生と対立する必要はありません。わたしがおすすめしているのは、「賞をねらうのではなく、子どもが楽しんで一枚仕上げることを目標にしたい」と、家庭の温度感をやわらかく共有しておくことです。多くの先生は、それを聞けば無理に賞へ寄せようとはしません。
入選者が園内に貼り出される時期は、子ども同士でも話題になります。「◯◯くんは金賞だったんだって」と我が子が言ってきたら、「そうなんだ、すごいね」と相手を認めたうえで、「あなたのあの絵、空の色をたくさん重ねてたよね」と、その子自身がやったことに話を戻すのがおすすめです。比べる相手を減らしてあげるほど、子どもは自分の絵に戻ってこられます。
逆に、我が子が入選したときも、扱い方には少しだけ気をつけたいところです。「才能がある」「これで自信がついたね」と結果に寄せすぎると、次に落選したときの反動が大きくなります。「あの場面を描こうと決めたのが良かったね」と、選んだ過程をねぎらうくらいがちょうどいいと感じています。
よくいただく質問
Q. 賞をとった経験は、自信につながらないのですか?
つながる子もいます。ただ、その自信は「選ばれたこと」に支えられているので、次に選ばれなかったときに崩れやすい面があります。「自分で決めて、最後まで描いた」という経験のほうが、結果に左右されにくい土台になります。両方あっていいと思いますが、順番としては後者が先だと考えています。土台のほうが先にできていれば、あとから賞をとっても浮き足立ちにくく、とれなくても「描くのは好き」という気持ちは残ります。
Q. 学校の宿題でコンクール用の絵を描くよう言われました。
その場合は、まず本人が描きたいモチーフから始めるのをおすすめします。テーマが指定されていても、そのなかで「自分がいちばん気になる場面」を選ぶ余地はたいていあります。仕上がりを大人が手直しするより、「ここ、時間かけたね」と過程を認めるほうが、次の一枚につながります。
Q. うちの子は負けず嫌いで、賞を目標にすると頑張れます。
それも一つの個性なので、無理に止める必要はありません。ただ、目標を「金賞」だけにせず、「去年より背景をていねいに塗る」など、自分のなかで比べられる目標も一緒に置いておくと、結果が出なかったときにも前を向きやすくなります。
Q. 造形クラブに通えば、絵のコンクールで賞をとれるようになりますか。
正直にお伝えすると、そこを目的にした教室ではありません。結果として入選する子はいますが、それは狙って指導したからではなく、自分の描きたいものを最後まで描ききる習慣がついた結果です。賞のための対策を求めておられる場合は、目的に合った教室を選ばれたほうが、お子さんにとっても幸せだと思います。
まとめ
コンクールは、悪いものではありません。挑戦したい子にとっては、締め切りに向かって一枚を仕上げる貴重な機会です。ただ、評価軸が「上手さ」に寄っていくと、子どもは自分の答えより審査員の好みを先に考えるようになりがちです。だからこそ、賞は目的ではなく結果にとどめておく。出すかどうかは、子ども自身の気持ちから始める。この順番を守るだけで、絵を描く時間は窮屈になりにくくなります。コンクールに出す年も、出さない年も、家庭で見るところは「その子が自分で決めて、時間をかけたか」だけで十分だと思います。
poppy questでは、賞を追いかけることはしませんが、お子さんが「出してみたい」と思ったときには、その気持ちごと受け止めて一緒に進め方を考えます。コンクールとの距離のとり方に迷ったら、お気軽にご相談ください。✨️
poppy quest(ぽぴくえ)造形クラブ
学校でも、おうちでもない。
三軒茶屋のギャラリーにある、ひみつきち。
子どもの「これが好き」が見つかる、もっと絵が好きになる場所です。
毎週日曜、上手さだけでは評価しません。
誰かの正解より、自分の答えを探す旅へ。
武蔵野美術大学 油絵学科卒の現役作家が、
6名までの小さな輪のとなりで、一緒に手を動かし伴走します。
- 毎週日曜 10:00〜11:30
- 年長〜小学生
- 各回6名の少人数制
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