色とりどりの紙が散らばるテーブルで、安全バサミで色紙をゆっくり切る子どもの手元

不器用でもいい|ハサミが苦手な子の造形と、道具との付き合い方

色とりどりの紙が散らばるテーブルで、安全バサミで色紙をゆっくり切る子どもの手元

工作の時間になると、少し気が重くなる。ハサミを持たせても線の上をまっすぐ切れない、のりを使えば手も机もベタベタ、筆を持てば水浸し。まわりの子はすいすい進めているのに、うちの子だけ手が止まっている。参観日にその様子を見て、「うちの子は不器用なのかもしれない」と、そっと胸にしまった経験のある方は、少なくないと思います。

結論から書くと、手先が苦手でも、造形の時間は十分に楽しめます。ハサミやのりがうまく使えないことと、「頭のなかにあるものを形にする力」は、別のものだからです。今回は、道具が苦手な子とのつきあい方について、少人数の造形教室をやっている立場から書いてみます。技術を早く伸ばす方法ではなく、苦手意識をつけずに造形を続けるための考え方が中心です。

ハサミは、思っているよりゆっくり育つ

保育の現場の資料を見ると、ハサミを使いはじめる目安は2〜3歳ごろとされています。ただし「はさみは何歳から使える?」の解説では、年齢そのものより、手をしっかり開いたり閉じたりできるか、スプーンやフォークで食事ができるか、シールを貼ったりはがしたりできるか、紙を丸めたり広げたりできるか、といった手指の発達を見て判断するとよい、と書かれています。つまり、同じ年齢でも準備が整う時期には大きな幅があります。

切り方にも順番があります。保育士向けのハサミ指導案では、まず一回で「チョキン」と切る一回切りから始めて、刃を動かしながら切り進める連続切り、それから直線、最後に曲線や複雑な形、という段階が示されています。曲線をなめらかに切れるようになるのは、多くの子で就学前後、人によっては小学校に入ってからです。「園でやっていたのだから、小学生ならできて当然」という前提は、いったん外して大丈夫です。

のりや筆も同じです。指先で量を加減する、水の含み具合を調整するといった動きは、細かい筋肉のコントロールが必要で、これも個人差の大きい部分です。「苦手」に見えるものの多くは、単純にまだ発達の途中、というだけのことが多いのです。

作品の目的は「上手に切ること」ではない

ここで立ち止まって考えたいのは、そもそも造形の時間で子どもがやっていることは何か、ということです。切る、貼る、塗るは手段であって、目的ではありません。目的は、頭のなかにあるイメージや、心が動いたことを、自分なりの形にして外に出すこと。その子の世界が画面に出ていれば、切り口がガタガタでも、のりがはみ出していても、作品としては何も減点されません。

だとすれば、ハサミが苦手なら、ハサミを使わないルートを選べばいいだけです。手でちぎった紙には、ハサミにはない柔らかい輪郭が出ます。スタンプや型抜き、シール、穴あけパンチを使えば、切らずに形をつくれます。塗るのが苦手なら、指で塗る、スポンジでポンポンと置く、色紙を貼る、という方法があります。道具は、目的を助けるための補助具です。合わないものを無理に使わせるより、その子の手に合う方法を一緒に探すほうが、ずっと先に進みます。

苦手になりやすい道具代わりにできること
ハサミで線の上を切る手でちぎる/型抜き/穴あけパンチ/シール
のりを薄くのばすのりペン/両面テープ/マスキングテープ
筆で細かく塗る指で塗る/スポンジ/ローラー/色紙を貼る
鉛筆でしっかり線を引くクレヨン/マーカー/太めの色鉛筆
小さいパーツをつまむ大きめの素材にする/ピンセットを使う

道具そのものを、見直してみる

「不器用」と感じている場面の一部は、道具がその子に合っていないだけ、ということもあります。チェックしてみたいポイントをいくつか挙げます。

  • 利き手に合っているか:左利きの子に右利き用ハサミだと、刃がかみ合わず切れません。左利き用を用意するだけで解決することがあります。
  • サイズと重さ:手に対して大きすぎる・重すぎるハサミは扱いにくい。子どもの手に合った小ぶりのものを。
  • バネ付きハサミ:自動で刃が開くタイプは、「開く」動作が苦手な子の負担を減らします。
  • 紙の厚さ:薄いコピー用紙はぐにゃぐにゃして切りにくい。少し厚めの画用紙のほうが切りやすい子もいます。
  • 姿勢と机の高さ:足が床につかず体が不安定だと、手元も定まりません。足台を置くだけで変わることがあります。

なお、この進め方は、発達の特性や診断の有無にかかわらず、すべてのお子さんに対して同じです。「切れる子」「切れない子」で分けるのではなく、一人ひとりの手に合う方法を用意する、というだけのことです。療育的なアプローチが必要かどうかは、専門機関で相談されることをおすすめします。教室でそこに踏み込むことはありませんが、どんな手の状態でも、造形の時間そのものは楽しめるように整えています。手先の育ちには本当に幅があり、ある道具が合わないことは、その子の何かが劣っているという話ではまったくありません。合う入り口を一緒にさがす、それだけで十分に前に進めます。

「できない」と言わせない環境をつくる

手先が苦手な子は、工作の時間に「またできなかった」という経験を積み重ねがちです。それが続くと、道具を見ただけで「どうせ無理」と手が止まるようになります。ここをほどくには、まず「切れた・切れない」で評価しない大人が、そばにいることが大事です。

たとえば、切り口がぎざぎざになったとき。「もっとまっすぐ」と言う代わりに、「このぎざぎざ、恐竜の背中みたいだね」と、その形を生かす方向に話を向ける。ちぎった紙が変な形になったら、「この形、何かに見えない?」と一緒に眺める。失敗に見えたものが作品の一部になる経験を何度かすると、子どもは道具を怖がらなくなります。

「不器用」という言葉を、家では置いておく

大人が何気なく使う「不器用」という言葉は、子どもにとっては思いのほか重く響きます。一度その言葉が自分のものになると、うまくいかない場面のたびに「やっぱり自分は不器用だから」と、挑戦する前に理由づけをするようになります。これは能力の問題ではなく、言葉が作った思い込みです。

家庭では、「不器用」の代わりに「今は練習中」「手がゆっくり育っているところ」という言い方に置きかえてみてください。事実は同じでも、子どもの受け取り方はずいぶん変わります。きょうだいやお友だちと比べる言い方も、できるだけ避けたいところです。手先の育ち方は本当に個人差が大きく、比べても得るものがありません。

年齢ごとの、ゆるやかな目安

あくまで幅のある目安ですが、年中さんくらいまでは、一回切りや、大きくちぎる動きが中心です。細かい作業を求めず、大きい素材でのびのびやるのが合っています。年長さんから小学校低学年で、直線切りや、のりで貼りたい場所に貼る、といったことが少しずつできてきます。ここでも個人差は大きく、曲線がなめらかに切れるのは中学年以降という子も普通にいます。

大事なのは、この目安に「間に合っているか」を気にしすぎないことです。手の発達はゆっくりでも、着実に進みます。今できないことも、半年後にはできていることが多い。焦って練習量を増やすより、苦手意識をつけないことのほうが、長い目で見て得だとわたしは思っています。手が育つのを待つあいだ、造形の楽しさから離れさせないことが、いちばん大切な下ごしらえになります。

造形クラブでは、どうしているか

poppy questの造形クラブは、東京・三軒茶屋のギャラリーが教室です。毎週日曜10:00〜11:30、対象は年長さんから小学生、各回6名までの少人数制。講師は武蔵野美術大学の油絵学科を卒業した現役の油絵作家です。90分は、対話30分、制作60分、振り返り、という流れです。

少人数なので、一人ひとりの手の様子を見ながら、その子に合う道具や進め方を用意できます。ハサミが苦手な子には、ちぎる・貼る・スタンプといった別のやり方をいくつか置いておき、本人に選んでもらいます。「切らないとダメ」ということはありません。完成度で評価もしません。振り返りの時間には、「切るのがうまくなった」ではなく、「この形、どうやって作ったの?」と、その子の工夫を聞きます。

上手い下手で作品を測らない、「正解より自分の答えを」という姿勢は、道具が苦手な子にとって、特に居心地のいいものだと思います。手先の器用さは、その子の表現の豊かさとは関係ありません。不器用でも、伝えたいものがある子は、ちゃんといい作品をつくります。

手は、日々の暮らしのなかで育っていく

ハサミの練習だけを取り出して繰り返すより、手全体をたくさん使う生活のなかで、じわじわ育てていくほうが子どもには合っています。特別な教材はいりません。たとえば、次のようなことが、そのまま手先のトレーニングになります。

  • 台所の手伝い:レタスをちぎる、きのこを裂く、卵の殻をむく。力の加減を指で覚えます。
  • 洗濯ばさみ:つまんで開く動きは、ハサミを開く動きとよく似ています。遊びとして数をこなせます。
  • 粘土・ねんど遊び:ちぎる、丸める、のばす。手のひら全体と指先を同時に使います。
  • シール貼り・折り紙:はがす、位置を合わせる、角を合わせて折る。細かい位置合わせの練習になります。
  • ボタン・ファスナー・靴ひも:着替えのなかにある動きも、りっぱな手先の運動です。

どれも「練習させる」という顔をせず、暮らしの流れのなかでやるのがコツです。「上手にできたか」を見るのではなく、「一緒にやったね」で終わらせる。評価されない場所でたくさん手を動かした子ほど、道具を怖がらずに使えるようになります。

教室での、ある子のこと

入会したばかりのころ、ハサミを持つと体がかたくなってしまう子がいました。線の上を切ろうとするたびに手が止まり、「できない」と小さな声で言う。そこで、その日はハサミをいったん置いて、色紙を手でちぎってもらいました。ちぎった紙を並べているうちに、偶然できた細長い形を見て「へびみたい」と笑い、そこから、へびがたくさんいる草むらの絵になりました。

その次の回、その子は自分からハサミを手に取りました。「ちぎるのでもいいし、切ってもいい」と分かっていると、道具を選ぶ側に立てます。半年ほどたった今は、直線ならかなり切れるようになりました。でも、いちばん変わったのは技術よりも、道具の前で体がこわばらなくなったことです。「切れないと参加できない」という思い込みを外してあげるだけで、子どもは自分から手を伸ばします。

よくいただく質問

Q. 苦手なハサミを、家で練習させたほうがいいですか。
嫌がっていないなら、遊びの範囲で少しずつでかまいません。粘土を切る、ストローを切る、折り込みチラシで一回切りをたくさんする、など、簡単で達成感のあるものから。嫌がっているときに無理強いすると、苦手意識が強まるので、いったん離れるのも一つの手です。

Q. 「不器用」と本人が言うようになりました。
まわりと比べてそう感じているのだと思います。「手はゆっくり育つから、今できなくても大丈夫」と伝えたうえで、その子が得意なこと(色を選ぶ、話を考える、大きく描く、など)に光を当ててみてください。造形の力は手先だけでは決まりません。

Q. 教室では、ほかの子と同じ課題ができなくても大丈夫ですか。
大丈夫です。同じテーマでも、使う道具ややり方は一人ひとり違っていい、という前提で進めています。「みんなと同じようにできること」を目標にはしていません。

Q. 小学校の図工で困らないか心配です。
学校の図工も、本来は「上手に切る」ことがゴールではありません。ただ、時間内に仕上げる場面はあるので、家では「切る以外の方法も知っている」状態にしておくと、本人が困ったときに引き出しを持てます。担任の先生に、家庭での様子を一言伝えておくのも助けになります。

Q. 左利きです。ハサミはどうすればいいですか。
左利き用のハサミを用意してあげてください。右利き用を左手で使うと、刃の重なり方の関係で紙がつぶれて切れにくく、「不器用」に見えてしまいます。道具を替えるだけで、すっと切れるようになることがよくあります。

まとめ

ハサミやのり、筆が苦手でも、造形の時間は十分に楽しめます。手先の動きはゆっくり、しかし着実に育つもので、「苦手」に見えることの多くは発達の途中というだけです。道具は目的ではなく補助具なので、合わないものは、ちぎる・貼る・スタンプといった別のルートに置きかえていい。完成度で測らず、その子の工夫に目を向ける大人がそばにいれば、子どもは道具を怖がらなくなります。手先の器用さは、その子の表現の豊かさとは別ものです。伝えたいものがある子は、不器用でも、ちゃんと自分の作品にたどり着きます。

poppy questでは、一人ひとりの手に合う道具ややり方を用意して、「できる・できない」で分けずに造形の時間をつくっています。お子さんの手先のことで気になることがあれば、お気軽にご相談ください。🕊

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