きょうだいで、つい絵を比べてしまう|横並びにしない関わり方

上の子と下の子が、それぞれ描いた絵を持ってきます。二枚を並べて見たとき、つい「お姉ちゃんのほうが、いろんな色を使ってるね」と口から出てしまう。言ったあとで、しまった、と思う。比べたくないのに、比べてしまった。あるいは、SNSで同じ年ごろの子の上手な絵が流れてきて、うちの子のと見くらべて、勝手にため息をついている自分に気づく。こういう瞬間に、そっと落ち込んだことのある方は、たぶん少なくありません。
先に言っておきたいのは、比べてしまう自分を責めなくていい、ということです。子どもが同じ土俵に並んでいれば、大人が比べてしまうのは自然な反応です。大事なのは、比べる気持ちをゼロにすることではなく、それを子どもの前でどう扱うか。今回は、きょうだいの絵をどう見て、どう声をかけるかについて、造形教室をやっている立場から書いてみます。上の子と下の子、それぞれの絵の見方も、具体例をまじえて整理します。
「横の比較」が、子どもに残すもの
きょうだいや友だちと比べられ続けると、子どもの中に何が残るか。育児の相談を扱うメディアでは、比較され続けた子は、比べられる相手に対してライバル心や嫉妬心を抱きやすくなり、結果としてきょうだい仲が悪くなったり、その友だちとうまく付き合えなくなったりする、という指摘があります。学研教室のコラムでも、他の子と比べる言葉は、子どもの自己肯定感を下げ、「どうせ自分なんて」という気持ちにつながりやすいと書かれています。
絵の場合、これはさらにやっかいです。絵は「正解」がないぶん、比べられると「自分の感じ方そのものがダメだと言われた」ように受け取られやすいからです。「お姉ちゃんのほうが上手」と一度言われた下の子が、その日から絵を描かなくなる、ということは実際に起きます。
代わりに勧められているのが、「縦の視点」です。STUDY HACKERこどもまなび☆ラボの記事では、きょうだいを同じようにほめられなくても大丈夫で、大事なのは他人と比べる「横」ではなく、その子自身の過去と比べる「縦」の視点だとされています。「前より」「この前と違って」という物差しなら、比べる相手はその子自身なので、誰かを追い落とす必要がありません。
| 横並びの声かけ | 縦の視点の声かけ |
|---|---|
| 「お姉ちゃんのほうが色が多いね」 | 「この前より、色をたくさん使ったね」 |
| 「弟くんはもう車が描けるのに」 | 「車のタイヤ、まるく描けるようになったね」 |
| 「二人とも見せて。どっちが上手かな」 | 「あなたのこの絵、どこが気に入ってる?」 |
| 「◯◯ちゃんみたいに描いてごらん」 | 「あなたはどんなふうに描きたい?」 |
上の子の絵、下の子の絵、それぞれの見方
上の子の絵を見るときは、「年下のきょうだいより描けて当たり前」という前提を、いったん外します。上の子には上の子の「前」があります。半年前の絵と今の絵を比べて、どこが変わったか。そこを言葉にしてあげると、上の子は「自分はちゃんと見てもらえている」と感じます。上の子は「しっかりしていて当然」と扱われがちで、絵についても正当に驚いてもらえる機会が意外と少ないものです。
下の子の絵は、上の子の完成度と並べないことが何より大事です。二歳、三歳の差は、絵の発達段階でいえば大きな開きです。頭から手足が出た人(頭足人)を描く時期の子と、地面と空を線で分けて描く時期の子を並べて「こっちのほうが」と言うのは、走り出したばかりの子とマラソン選手を同じ線で比べるようなものです。
下の子には、独特の難しさもあります。上の子のやることを見て育つので、真似がうまく、一見発達が早く見えることがあります。その一方で、いつも「上には上がいる」状態なので、「どうせお姉ちゃんには敵わない」と早々にあきらめて、絵から離れてしまう子もいます。下の子には「あなたの絵は、お姉ちゃんの絵とは別のもの」というメッセージを、意識して多めに渡したいところです。
家庭で、横並びを減らすくふう
気持ちのうえで「比べない」と決めるのは難しくても、環境を少し変えるだけで、比べる場面はかなり減らせます。
- 作品を並べて飾らない:冷蔵庫に二枚横並びだと、家族全員が毎日見くらべます。飾る場所を子どもごとに分ける、時期をずらす、などで距離をとれます。
- 「上手」の一言を減らす:「上手だね」は比較の言葉になりやすい。「わたしはこの青がすき」「ここ、時間かけたね」と、感じたことや事実を返します。
- 画材やテーマを分ける:同じ画用紙に同じお題だと、どうしても比べられます。一人はクレヨン、一人は絵の具、など違う入り口にすると、比べる土俵がなくなります。
- 一人ずつの時間をつくる:短くても、下の子が昼寝している間に上の子と描く、など「一対一で見てもらえた」時間があると、子どもは比較に強くなります。
- きょうだいに講評させない:「お兄ちゃん、どっちが上手だと思う?」は避けます。ジャッジ役を家庭に持ち込まないだけで、空気がやわらぎます。
それでも、うっかり比べる言葉が出てしまうことはあります。そのときは、あとからでいいので「さっきの言い方、よくなかったね。あなたの絵は、あなたの絵として好きだよ」と言い直せば大丈夫です。完璧に比べないことより、比べてしまったあとに立て直せることのほうが、子どもには伝わります。
親が「比べてしまう」ときの、心の置きどころ
比べてしまう気持ちの奥には、たいてい心配があります。「この子だけ描けないままだったらどうしよう」「上の子はできたのに」。その心配自体は、子どもを大事に思っているからこそのものです。ただ、心配を子どもにそのままぶつけると、子どもは「自分は心配される存在なんだ」と受け取ります。
比べたくなったら、心のなかで「この子の半年前と比べたらどうか」と言いかえてみてください。たいていの場合、その子なりに進んでいることに気づきます。それでも不安が消えないときは、絵の得意なきょうだいと比べるのをやめて、「この子は絵以外の何が好きか」に目を移すのも一つの手です。比べる相手を減らしてあげると、子どもの心はすねずに、前に進みやすくなります。
造形クラブでは、どうしているか
poppy questの造形クラブは、東京・三軒茶屋のギャラリーが教室です。毎週日曜10:00〜11:30、対象は年長さんから小学生、各回6名までの少人数制。講師は武蔵野美術大学の油絵学科を卒業した現役の油絵作家です。90分は、対話30分、制作60分、振り返り、という流れです。
きょうだいで通ってくれているご家庭もありますが、教室のなかでは、二人を「きょうだい」としてまとめて見ないようにしています。それぞれ別のテーマで進み、振り返りも一人ずつ。「お姉ちゃんはこう描いたね、あなたはどう?」という比べ方はしません。作品を壁に並べるときも、上手い順に並べる、といったことは一切しません。
「正解より自分の答えを」という言葉を大切にしているのは、まさにこういう場面のためです。誰かと比べて上か下かではなく、その子が何を選んで、どう決めたか。そこだけを見ます。比べられない場所で描く時間を持っておくと、子どもは家庭での比較にも少し強くなれます。下の子が「お姉ちゃんとは違う、自分の絵」を教室で見つけて、家でも描くようになった、という例もあります。
「比べる」と「見分ける」は違う
ここまで「比べない」と書いてきましたが、きょうだいの絵の違いに気づくこと自体は、悪いことではありません。上の子は物語を描き込むのが好き、下の子は色の勢いで見せるのが好き。そういう「持ち味の違い」に気づくのは、むしろ子どもをよく見ている証拠です。問題になるのは、その違いに「どっちが上か」という順位をつけたときだけです。
言いかえると、目指したいのは「比べない」というより「順位をつけない」です。二人の絵をどちらも面白がって、「お姉ちゃんはお話を描くのが好きなんだね」「あなたは色をぶつけるのが好きなんだね」と、それぞれの特徴を並列で言葉にする。違いは違いのまま置いておく。優劣に変換しない。これができると、きょうだいは互いの絵を否定せずにいられます。
生まれ順で、絵との距離は変わりやすい
厳密な決まりではありませんが、傾向として、上の子は「初めて」を一人で経験するので、絵についても自分のペースで試行錯誤しやすい立場にあります。一方で「お手本であるべき」というプレッシャーを感じやすく、失敗を人に見せたがらない子もいます。上の子には、「まちがえてもいい」「途中でやめてもいい」を、あえて多めに伝えたいところです。
下の子は、生まれたときから「先を行く人」が家にいます。真似できる相手がいるのは強みですが、いつも比較対象が目の前にいるぶん、「自分のほうが下」という感覚を持ちやすい環境でもあります。下の子には、上の子が関わっていない、その子だけのテーマや画材を用意して、「これはあなたの領域」と感じられる場所をつくると、絵から離れにくくなります。まん中の子は、上とも下とも比べられやすいので、一対一の時間を特に意識して確保したいところです。
教室での、あるきょうだいのこと
姉妹で通ってくれていたご家庭で、妹さんが「わたしはお姉ちゃんみたいに描けない」と、制作の途中で手を止めてしまうことが何度かありました。お姉さんの絵は細部まで描き込むタイプで、妹さんはそれを横目で見て、自分の絵が物足りなく感じていたようです。
そこで、妹さんには大きな紙と太い筆を用意して、「今日は細かく描かない。色だけで画面をいっぱいにしよう」というテーマにしました。できあがったのは、姉の絵とはまったく方向性の違う、勢いのある一枚です。振り返りで「これはお姉ちゃんには描けない絵だね」と伝えると、妹さんはとてもうれしそうでした。同じ土俵から降ろしてあげるだけで、子どもは自分の絵に戻ってこられます。その後、姉妹はお互いの絵を「こっちのほうがすごい」ではなく「わたしはこういうのが好き」と話すようになりました。ちょっとした画材とテーマの工夫で、比べる関係は、味わう関係に変わっていきます。
よくいただく質問
Q. きょうだいで同じ習い事をさせると、比べてしまいそうです。
同じ教室でも、担当が一人ずつ見てくれて、作品を優劣で並べない方針のところなら、家庭で比べるより比較は起きにくいです。心配なら、体験のときに「きょうだいをどう見ますか」と聞いてみてください。方針がはっきりしている教室なら、きちんと答えてくれます。
Q. 上の子が「弟のほうがほめられる」と言います。
下の子は「まだ小さいのにできた」でほめられやすく、上の子はそれを敏感に感じます。上の子には、結果ではなく「あなたが工夫したところ」を具体的に言葉にして、「ちゃんと見ているよ」を伝えてください。ほめる回数より、見ている中身が伝わることが大事です。
Q. すでに下の子が「絵は苦手」と言っています。
比較でついた苦手意識は、比較のない時間を積むと少しずつほどけます。上の子がいない場面で、正解のない落書きや、絵の具を垂らすだけの遊びから入ってみてください。「上手だね」を言わず、「どんな気持ちで描いたの?」と過程を聞くのがおすすめです。
Q. 年の差が大きいきょうだいでも、比べてしまいます。
年齢差が大きいほど、絵の発達段階の開きも大きくなります。並べれば上の子のほうが「描けて」見えて当然です。それぞれの「前」と比べる、飾る場所を分ける、といった基本は同じですが、年上の子には「小さいころのあなたも、こういう絵を描いていたんだよ」と、下の子の今を否定しない形で伝えると、上の子も比較の目線をゆるめてくれます。
Q. 祖父母がきょうだいの絵を比べて話します。
悪気なく「お兄ちゃんは上手だねえ」と言ってしまう場面はよくあります。角が立たない範囲で、「二人とも、それぞれ好きなものを描いているんです」と、大人の側から並列の言い方に置きかえていくと、少しずつ空気が変わります。子どもの前でのジャッジを減らすことが目的なので、完璧を求めなくて大丈夫です。
まとめ
きょうだいの絵を比べてしまうのは、子どもが同じ土俵に並んでいる以上、自然なことです。大事なのは、比べる気持ちをゼロにすることではなく、「横」ではなく「縦」で見ること。その子自身の前と比べ、上の子には上の子の、下の子には下の子の物差しを持つ。作品を並べて飾らない、画材やテーマを分ける、一人ずつの時間をつくる。環境を少し変えるだけで、比較の場面はかなり減らせます。うっかり比べてしまっても、あとから言い直せば大丈夫です。目指すのは「一度も比べない親」になることではなく、比べたあとに「あなたの絵は、あなたの絵として好きだよ」と戻ってこられる関係です。
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