子どもが絵を描く手元と、その隣で飲み物のカップを支えてただ見守る大人の手

絵が苦手だった親のあなたへ|教えなくていい、聞くだけでいい

子どもが絵を描く手元と、その隣で飲み物のカップを支えてただ見守る大人の手

図画工作や美術の時間が、ずっと苦手だった。写生大会でまわりの子みたいに描けなかった。先生に「もっとよく見て」と言われて、何度見てもわからなかった。廊下に貼り出されたのは、いつも同じ数人の絵だった。通知表の図工の欄を、親に見られたくなかった。——そんな記憶を持ったまま大人になった方に、この記事を書いています。

自分が苦い思いをしたからこそ、我が子には絵を楽しんでほしい。その気持ちがある一方で、「自分は絵を教えられない」「一緒に描いたら下手なのがバレる」という不安もある。じつは、この不安は手放して大丈夫です。子どもに絵を教える必要はありません。やることは、教えることではなく、聞くこと。今回はその話を、あなた自身が抱えているかもしれない苦い記憶にも触れながら、していきます。

親が教えなくても、子どもの絵は育つ

子どもの絵は、大人が手ほどきしなくても、発達段階に沿って自然に進んでいきます。サクラクレパスの解説によると、なぐり描きから始まり、丸を閉じて描けるようになり、頭から手足が生えた人(頭足人)を描き、やがて地面と空を分けて描き……というふうに、年齢とともに段階を踏んで変わっていきます。これは世界中の子どもにほぼ共通する順番で、教え込んだから早く進むというものではありません。

むしろ、大人が「顔はこう描くんだよ」「空は上、地面は下」と型を渡しすぎると、子どもは自分で世界を観察するより、大人の見本を写すようになります。教えないことは、手抜きではなく、その子が自分のペースで進むための余白です。

ほめ方にも、少し注意したいところがあります。NTTドコモのcomottoのコラムでは、「上手にできること」をほめすぎると、子どもが「上手いという価値観がいちばん大事なんだ」と受け取り、上手にできないことに挑戦しにくくなる、と指摘されています。かわりに勧められているのが、「私は絵を見てこう感じたよ」という『わたし』を主語にした伝え方です。「いろんな色を使ったね、どんな気持ちで描いたの?」のように。

「これは何?」より「どうしてこの色にしたの?」

子どもが絵を見せてきたとき、いちばん出やすい言葉が「これは何?」です。悪気はないのですが、子どもによっては「わからないものを描いた」と責められたように感じたり、「ちゃんと何かに見えるように描かなきゃ」と身がまえたりします。とくに、まだ「見たものそっくり」に描く段階ではない子には、けっこうな圧になります。

かわりに使いやすいのが、答えが一つに決まらない聞き方です。「どうしてこの色にしたの?」「これ描いてるとき、どんな気持ちだった?」「いちばん気に入ってるところはどこ?」。どれも、正解を確かめる質問ではなく、その子の頭のなかを見せてもらう質問です。comottoのコラムでも、ふつうと違う色使いをしていたら「おもしろいね」「どうしてこの色にしたの?」と質問を通じて考えを引き出すとよい、とされています。

教えようとする関わり聞くだけの関わり
「顔はもっと丸くしようか」「この顔、どんな気持ちなのかな?」
「空は青で塗るんだよ」「この空の色、どうやって決めたの?」
「これは何を描いたの?」「気に入ってるところ、教えて」
「お父さんが描いてあげる」「次はどこを描くか、決めた?」
「上手だね(とりあえず)」「この線、勢いがあってわたしは好きだな」

ポイントは、手を出さないことです。うまく描けずに子どもがイライラしていると、つい鉛筆を取って直してあげたくなります。でも、そこで手伝うと「自分では無理」というメッセージが残ります。「難しいよね。どうしたい?」と、あくまで本人が決める形にとどめておくほうが、次につながります。

今日から使える一言/しまっておく一言

  • 使える:「どうしてこの色にしたの?」——考えを引き出す。答えが一つに決まらない。
  • 使える:「この部分、時間かけたね」——過程を見ている、というメッセージ。
  • 使える:「わたしはこの青がすき」——『わたし』を主語にした素直な感想。
  • しまっておく:「これは何?」——詰問に聞こえやすい。まず気持ちや色を聞く。
  • しまっておく:「もっとこうしたら?」——本人が決める前に手を入れない。

あなたが「下手」と言われたのは、時代のものさしのせい

ここで、少しだけあなた自身の話をさせてください。子どものころ「絵が下手」と言われた経験の多くは、「見たものにどれだけ似ているか」というものさし一つで測られた結果です。写実的にうまいかどうか。それだけで並べられたら、そこに入らない絵は「下手」に分類されてしまいます。

でも、絵の価値はそこだけにはありません。色の選び方、画面の勢い、何を描かずに残したか、どんな気持ちがにじんでいるか。あなたの絵も、本当は「下手」だったのではなく、当時の一本のものさしに合わなかっただけかもしれません。大人になった今、そのものさしから自由になって、子どもと一緒に「へたでもいい絵」を描いてみると、案外たのしいものです。

一緒に描くのが気が進まないなら、無理に描かなくてもかまいません。となりで自分の手帳に落書きするくらいでも十分です。大事なのは、「絵の時間は、うまく描く時間ではなく、なにか感じたことを出す時間だ」という空気を、家のなかに置いておくことです。あなたが子どものころにほしかったであろう、そういう空気を、今度はあなたが用意する側にまわれる、と考えてみると、少し気持ちが軽くなるかもしれません。

年齢別の、関わりの目安

未就学のうちは、絵は遊びの延長です。何を描いたか大人にわからなくて当然なので、「これは何?」ではなく「たくさん描いたね」「この色、元気だね」と、行為そのものを受け止めるだけで十分です。

小学校低学年になると、自分なりのルールで世界を描くようになります。空が緑でも、人が透明でも、そこには本人の理屈があります。「どうしてそうしたの?」と聞くと、思いがけない話が返ってきます。中学年以降は、「本物みたいに描きたいのに描けない」と悩みはじめる子が出てきます。ここで親が教え込もうとすると逆効果になりやすく、「うまく描けないと感じてるんだね」と気持ちを受け止めたうえで、必要なら教室のような第三者の手にゆだねるのがおすすめです。親の役割は、技術を教えることではなく、絵を嫌いにさせないことです。

造形クラブでは、どうしているか

poppy questの造形クラブは、東京・三軒茶屋のギャラリーが教室です。毎週日曜10:00〜11:30、対象は年長さんから小学生、各回6名までの少人数制。講師は武蔵野美術大学の油絵学科を卒業した現役の油絵作家です。90分は、最初の30分が対話、次の60分が制作、最後が振り返り、という流れになっています。

ここでは、上手い下手で作品を評価しません。「正解より自分の答えを」を合言葉に、自己表現・主体性・粘り強さといった、点数に出にくい力を育てることを大切にしています。技術的な相談があれば講師が伴走しますが、「こう描きなさい」と型を渡すことはしません。最初の対話の時間で「何を描きたいか」をその子から引き出し、制作中も「どうしたい?」と問いを返します。

つまり、ご家庭で「教える人」にならなくて大丈夫です。お子さんの絵について親御さんにお願いしたいのは、教えることではなく、興味を持って聞くことだけです。「絵が苦手だった」という親御さんほど、子どもの「うまく描けない」という気持ちに寄り添えることが多く、それは大きな強みだと感じています。

「教えなきゃ」と力が入ってしまうときは

絵が苦手だった親御さんほど、「せめて自分の子には、ちゃんと描けるようになってほしい」という思いが強くなりがちです。その気持ちはとても自然ですが、力が入りすぎると、子どもの絵の時間が「上達しなければいけない時間」に変わってしまいます。そうなると、皮肉なことに、あなたが子どものころに感じた窮屈さを、そのまま我が子に手渡すことになりかねません。

そういうときは、「今日は何も教えない」と最初に自分で決めてしまうのがおすすめです。口を出したくなったら、質問に変換する。「そこ、はみ出してるよ」ではなく「このはみ出したところ、どうする?」。手を動かしたくなったら、自分の紙に自分の落書きをする。子どもに必要なのは、上手な先生ではなく、自分の絵に興味を持ってくれる大人です。その役なら、絵が苦手でも十分に務まります。

教室での、あるお母さんのこと

体験にいらしたお母さんが、申し訳なさそうに「わたし自身が図工の成績がずっと悪くて、家で何も教えてあげられないんです」とおっしゃったことがあります。お子さんは、教室でとても集中して、大胆な色づかいの絵を描いていました。振り返りのとき、そのお母さんは絵を見て「わたしにはこんな色、思いつかない」と、心から驚いた顔をされました。

その「思いつかない」という素直な驚きこそ、お子さんにとっては何よりのほめ言葉でした。技術を教えられなくても、子どもの絵を面白がることはできます。むしろ、「上手に描く」に価値を置きすぎていない大人がそばにいるほうが、子どもは安心して自分の色を選べます。「教えられない」は、弱点ではなく、口を出しすぎないための距離だと考えていいと思います。

家のなかに、絵の「安全地帯」をつくる

子どもが安心して描くためには、「ここでは、うまい下手を言われない」という場所が家のなかにあることが大きいです。難しいことではありません。次のような小さな工夫で、その空気はつくれます。

  • いつでも描ける状態にしておく:紙とクレヨンを、子どもが自分で出せる場所に。「描きたい」と思った瞬間に手が届くことが大事です。
  • ぜんぶ飾らない・ぜんぶ捨てない:本人に「どれを飾る?」と選ばせる。評価するのは大人ではなく本人、という形にします。
  • 途中でやめてもいいことにする:完成を求めないだけで、絵のハードルはぐっと下がります。
  • 大人も下手な絵を描く:親がへたな絵を笑いながら描く姿は、いちばん強い「下手でいい」のメッセージです。
  • 他の子の絵と比べない:SNSで見た上手な子の絵を引き合いに出さない。比べる相手は、その子の「この前」だけにします。

よくいただく質問

Q. 子どもに「一緒に描いて」と言われますが、下手で気が引けます。
上手に描く必要はまったくありません。むしろ、親がへたな絵をたのしそうに描いている姿は、「下手でもいいんだ」といういちばん強いメッセージになります。棒人間でも、ぐるぐるの模様でも大丈夫です。

Q. つい「上手だね」と言ってしまいます。
「上手だね」がすべて悪いわけではありません。ただ、そればかりになると評価の言葉として重くなります。「上手」を一回言ったら、次は「わたしはここが好き」「どうやって描いたの?」と、感想や質問に置きかえてみてください。

Q. 子どもが「絵、下手だから嫌い」と言います。自分と同じで心配です。
まず「そう感じてるんだね」と気持ちを受け止めてください。そのうえで、うまさを競わない場所——正解のない落書きや、色で遊ぶだけの時間——を用意してみてください。あなた自身が絵で傷ついた経験があるぶん、「わかるよ」と言える。それは専門家にはない関わり方です。

Q. 宿題で絵を描かせるとき、口を出さずにいられません。
締め切りのある宿題は、大人もつい手を貸したくなります。それでも、仕上がりより「自分で決めて描いた」経験のほうが残ります。どうしても気になるときは、「アドバイスしてほしい?それとも自分でやりたい?」と本人に選ばせてから関わると、押しつけになりにくいです。

Q. 私が絵を楽しめないので、子どもにもその空気が伝わりそうです。
無理に楽しむふりをしなくて大丈夫です。「お母さんは絵は得意じゃないけど、あなたの絵を見るのは好き」と正直に伝えるだけで十分伝わります。子どもにとって必要なのは、上手な親ではなく、自分の絵に関心を向けてくれる親です。

まとめ

絵が苦手だった親が、子どもの絵にしてあげられることは、教えることではありません。子どもの絵は、教え込まなくても発達段階に沿って育ちます。やることは、手を出さずに聞くこと。「これは何?」ではなく「どうしてこの色にしたの?」「どんな気持ちで描いた?」と、その子の頭のなかを見せてもらう。そして、あなた自身が昔「下手」と言われたのは、写実に偏った一本のものさしのせいかもしれない、と思い出してみる。親の役割は、技術の指導ではなく、絵を嫌いにさせないことです。うまく描かせようとしなくていい。となりで興味を持って聞くだけで、じゅうぶんに支えになります。

poppy questでは、ご家庭が「教える人」にならなくて済むように、講師がお子さんの「描きたい」に伴走します。絵が苦手だったからこその不安も含めて、お気軽にご相談ください。🕊

poppy quest(ぽぴくえ)造形クラブ

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誰かの正解より、自分の答えを探す旅へ。
武蔵野美術大学 油絵学科卒の現役作家が、
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  • 毎週日曜 10:00〜11:30
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  • 各回6名の少人数制
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