公園の花壇で本物の花をじっくり見ながらスケッチブックに描く子どもの手元、自然光の午前

「よく見る」ってどういうこと?観察画・写生大会のコツ

公園の花壇で本物の花をじっくり見ながらスケッチブックに描く子どもの手元、自然光の午前

秋になると、学校や地域で写生大会があったり、図工で観察画を描いたりする機会が増えます。花や木、校舎、自分の靴、野菜。目の前のものをよく見て描く課題です。「よく見て描きなさい」と言われても、子どもにとって「よく見る」が具体的に何をすることなのかは、実はあまりはっきりしていません。この記事では、その「よく見る」を分解してみます。

先に大事なことを書いておきます。観察画で差がつくのは、絵の技術よりも「見る時間の長さ」です。上手に見える子は、描く前と途中に、対象を何度も見ています。逆に手が止まりがちな子は、最初にちらっと見ただけで、あとは紙ばかり見ています。だから親が手伝えることの多くは、「もう一回見てみようか」と促すことに集約されます。

写生大会のコツを紹介する記事でも、「見たものを描く」という指示に素直にしたがって、人より時間をかけてていねいに描いたら県のレベルで入賞した、という体験が語られています(ばしでざ「【写生大会のコツ】絵が苦手でも賞をもらえる絵の描き方」)。特別な才能の話ではなく、見る時間と描く時間をたっぷりとった結果、という点がヒントになります。

「よく見る」を、具体的な動作に分ける

「よく見る」とだけ言われても動けないので、いくつかの具体的な動作に置きかえます。どれも道具はいりません。写生大会の直前ではなく、ふだんの落書きの時間に少しずつ試しておくと、本番でも自然に出てきます。

やってみることねらい
いちばん濃いところを最初にさがす輪郭からでなく、色の濃淡から形をとらえる
片目をつぶって見る立体を平面として見やすくし、形を写しとりやすくする
形を言葉にしてみる(「まるより少し細長い」など)見たことを頭の中で整理してから描ける
対象と紙を、何度も交互に見る記憶で描かず、見ながら描く習慣をつける
指で空中に輪郭をなぞる描く前に、形の曲がり方を手でつかむ

とくに「輪郭からでなく、一番濃いところから」は、大人でも試すと発見があります。多くの子は、対象のふちを線でぐるっと囲ってから中を塗ろうとします。でも実際のものには「線」はありません。あるのは明るいところと暗いところの差です。いちばん暗い部分を先に置くと、そこを手がかりに全体の形が決まっていきます。

「片目で見る」のも、道具のいらない工夫です。両目で見ると奥行きがつきすぎて、紙に写しとりにくくなります。片目にすると、見えているものが写真のように平らになり、「この角度は紙の上ではこうなる」と対応させやすくなります。ときどき片目で確認しながら描く、くらいで十分です。

「形を言葉にする」のは、観察と思考をつなぐ作業です。「葉っぱのふちは、ぎざぎざじゃなくて、ゆるく波打っている」「くきは、まっすぐじゃなくて、途中で一回曲がっている」。声に出して言ってから描くと、なんとなくの記憶ではなく、見たとおりに描けるようになります。

写生大会の前に、親ができる声かけ

当日いきなり「上手に描いてきてね」と言うより、前の日までに「よく見る」の練習を少しだけしておくほうが効果があります。家にあるもの、たとえばりんごやコップを一つ置いて、五分だけ描いてみる。そのとき、「ふちから描かないで、暗いところはどこ?」と一言そえます。これだけで、見方のスイッチが入ります。

当日の朝は、技術ではなく時間の使い方を伝えます。「早く仕上げなくていいよ」「まわりが色を塗り始めても、あなたはもう少し見ていていい」。急がなくていい、と言ってもらえることが、じっくり見るための許可になります。仕上がりの心配より、途中で飽きないための声かけのほうが役に立ちます。

描いている最中にのぞきこんで「そこ、色が違うよ」と指摘するのは避けたほうがいいです。見て、迷って、直す。そのサイクルは本人のものです。どうしても声をかけるなら、「もう一回、本物を見てみたら?」という、判断を本人に返す言い方がおすすめです。

水彩で塗るなら、水の量だけ気にかけてあげてください。写生でうまくいかない原因の多くは、水をつけすぎて紙がふやけたり、筆洗の水がにごって色が濁ったりすることです。水はこまめに替える、明るい色から塗る。この二点だけで、仕上がりはずいぶん変わります(HugKum「小学生の画力を伸ばす!絵が上手くなるコツ」)。

「上手」より「長く見られた」をほめる

描き終わった絵を見て、まず何をほめるか。形の正確さや色のきれいさより、「よく見てたね」「くきの曲がり方まで描いてる」と、観察の跡をほめるのがおすすめです。そうすると子どもは、「見ること」が評価されるのだと理解し、次はもっと見ようとします。

逆に「もう少し似せて描けたね」と仕上がりだけを比べると、「自分は下手だ」で終わってしまいます。観察画は、対象と見くらべればどうしても「ずれ」が目につきます。そのずれを責めるのではなく、どこを見て、どこを描こうとしたのかを聞く。それが、次につながるほめ方です。

「時間をかけたのに、あまり似ていない」という結果になることもあります。それでも、五分で終わらせた絵より、三十分見つづけた絵のほうが、その子の中に残るものは大きいです。似ているかどうかは結果、見つづけられたかどうかは力。分けて考えてあげてください。

造形クラブでの「見る時間」

poppy questの造形クラブでは、九十分のうち、はじめの三十分を「まず見て、話す」時間にあてています。いきなり描き始めず、対象を前にして、気づいたことを言葉にしていく。「ここ、思ってたより赤くない」「影が青っぽい」。そうやって見る解像度を上げてから、手を動かします。教室は東京・三軒茶屋のギャラリー、毎週日曜の午前十時から十一時半、年長から小学生まで各回六名の少人数制です。

講師は武蔵野美術大学の油絵学科を出た現役の油絵作家です。プロの制作でも、描いている時間と同じくらい、対象や画面を「見ている」時間があります。見ることは、描くことの準備ではなく、描くことそのものの一部です。子どもにも、見る時間を省かないことを、急かさずに伝えています。

少人数なので、一人ひとりが何を見ているかに寄りそえます。同じ一本の枝を描いても、子どもによって注目する場所は違います。その違いを直すのではなく、「あなたはそこを見たんだね」と受けとめる。上手い下手で評価せず、「正解より自分の答え」を大切にしています。

よくある質問

「うちの子は、見ないですぐ描き始めてしまう」というご相談は多いです。見る習慣は、短い時間から少しずつつきます。最初から十分見ろと言っても難しいので、「三十秒だけ、じっと見てから描こう」と区切るところから始めてみてください。慣れてくると、自分から見比べるようになります。

「輪郭から描くくせが直らない」という質問には、無理に直さなくてよい、とお答えしています。輪郭から描くのも一つのやり方です。ただ、たまに「暗いところから塗り始める」を試してみると、いつもと違う見え方に気づきます。両方できると、対象によって使い分けられるようになります。

「写生大会で毎年時間が足りなくなる」という子は、描き込む場所を全部同じ濃さでやろうとしていることが多いです。いちばん見てほしいところだけていねいに描いて、まわりは軽く、とメリハリをつけると、時間内に見せ場のある一枚になります。

何を描くかで、難しさが変わる

「入賞」を目的にしすぎると、子どもは「賞をとれなかった=だめだった」と受け取ってしまいます。この記事でコンクールの話に触れるのも、賞をねらうためではなく、「時間をかけてよく見た絵は、人の目にとまりやすい」という事実を知ってもらうためです。目的はあくまで、その子が対象とじっくり向き合う時間をもつことです。

観察画は、対象選びの時点で難しさがだいぶ決まります。写生大会は場所が決まっていることが多いですが、図工の観察画や家での練習なら選べる場合があります。はじめは、動かないもの、形がはっきりしているもの、色数が少ないものが描きやすいです。運動ぐつ、水とう、はさみ、ピーマン、じゃがいも。身近な道具や野菜は、観察の練習にちょうどいい題材です。

反対に、木の全体、空、水面、動く生きものは、上級者でも手こずります。「全部を描かなきゃ」と思うと動けなくなるので、大きな対象を描くときは、「葉っぱ三枚ぶんだけ」「みきの、この曲がっているところだけ」と、範囲を小さく区切ってあげてください。画面に全部を収めることより、一部分をよく見て描くことのほうが、力になります。

色については、「見えた色の名前を、できるだけ細かく言ってみよう」と誘ってみてください。「みどり」ではなく「黄色っぽいみどり」「くらいみどり」「茶色がまじったみどり」。名前を細かくするほど、絵の具を混ぜるときの手が変わります。一本のチューブの色をそのまま塗るのではなく、混ぜて近づける。それだけで、ぐっと本物らしくなります。

家で練習するなら、同じものを二回描いてみるのもおすすめです。一回目より二回目のほうが、どこを見ればいいかがわかっているぶん、うまく描けることが多いです。「二回目のほうがよく見られたね」と伝えると、見ることと描けることがつながっている、と本人が実感できます。

道具と姿勢の、ちょっとしたこと

見る時間を長くするには、体がらくな姿勢でいることも案外大事です。前かがみで紙に顔を近づけていると、すぐに疲れて、対象を見に行くのがおっくうになります。いすに深く座り、紙を少し立てかけて、顔を上げれば対象、下げれば紙、という位置関係にしておくと、何度も見くらべるのが苦になりません。

鉛筆は、いつもより長めに持ち、力を抜いて動かすと、うすい線で何度でも描き直せます。濃い一本を決め打ちしようとすると、外れたときに消すのが大変で、そこで気持ちが折れてしまいます。「うすく、なんども」を合言葉にすると、失敗が失敗でなくなります。消しゴムは、まちがいを消す道具ではなく、明るいところを作る道具、と考えてもいいくらいです。

描く時間の長さは、学年によって無理のない範囲があります。低学年なら十五分から二十分、中学年で三十分、高学年で四十分も見ていられれば十分です。それ以上を求めると、集中ではなく我慢になってしまいます。短くても、その時間はしっかり見る。それを何回か重ねるほうが、一度に長くがんばるより身につきます。

写生大会の当日は、下じきや画板、いつも使っている鉛筆、しっかり消える消しゴムを持たせてあげてください。道具がいつもどおりだと、慣れない場所でも落ち着けます。飲みものと、日ざしをよける帽子もあると、途中で集中が切れにくくなります。細かいことのようですが、外で長い時間描くには、こうした備えが効いてきます。

うまく描けた日の、次の一歩

「よく見て描けた」という経験が一度できると、子どもは自分から見るようになります。その芽を育てるには、結果ではなく過程をほめ続けることです。「今日は葉っぱのすじまで見てたね」「さっき、三回も本物を見に行ってたよ」。見ていた事実を具体的に言葉にすると、それが次に見るときの手がかりになります。

描く対象を少しずつ増やしていくのもおすすめです。最初は一つのものだけ、慣れたら二つ並べて、そのうち机の上のようす全体へ。ものが増えると、重なりや前後関係を見ることになります。無理のない範囲で段階を上げていくと、飽きずに続けられます。

季節ごとに同じ場所を描く、というやり方もあります。庭の木、通学路の角、ベランダから見える景色。春夏秋冬で同じ構図を描くと、葉の量や色、光の向きの違いに自分で気づきます。うまい下手ではなく、「変わったところ探し」として楽しめます。

スケッチブックを一冊、その子専用に持たせておくと、見る習慣が生活に溶け込みます。出かけた先で五分、待ち時間に一つ。小さな絵がたまっていくと、それ自体が記録になり、見返すのが楽しみになります。上手に仕上げることより、たくさん見た日が積み重なることのほうが大事です。

写生大会や観察画の課題は、年に数回しかありません。でも「よく見る」練習は、道具さえあればいつでもできます。特別な日のためだけの技術にせず、ふだんの遊びの中で少しずつ試しておく。そうしておくと、本番の日も、いつもと同じように落ち着いて対象と向き合えます。

友だちや家族の絵と見くらべて落ち込む日もあります。そんなときは、少し前の自分の絵と見くらべさせてください。「前より、影まで見て描いてる」と自分の変化に気づけると、他人とくらべる気持ちがやわらぎます。比べる相手は、いつも過去の自分でいい、と伝えていきます。

まとめ ☺️

「よく見る」とは、才能ではなく、いくつかの具体的な動作の積み重ねです。いちばん濃いところをさがす、片目で見る、形を言葉にする、対象と紙を何度も見くらべる。そして何より、見る時間を惜しまないこと。親ができるのは、技術を教えることより、「急がなくていいよ」「もう一回見てみよう」と、見る時間を守ってあげることです。

poppy questでは、描く前に「まず見て、話す」時間をたっぷりとって、その子が何に気づいたかを一緒に確かめています。観察画や写生大会の前の関わり方の相談も含めて、お気軽にご相談ください。

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