テーブルで粘土をこねて立体的な形を作っていく子どもの手元、窓辺の自然光

粘土で「立体」をつくる時間|造形クラブが絵画教室じゃない理由

テーブルで粘土をこねて立体的な形を作っていく子どもの手元、窓辺の自然光

「絵画教室に通わせているはずなのに、今日は粘土だったみたい」。造形クラブにお子さんを通わせている保護者の方から、学期のはじめごろにときどきいただく声です。絵の具や色鉛筆で「絵」を描く時間を思い描いて申し込んだのに、粘土をこねたり、空き箱や新聞紙で立体をつくったりして帰ってくる。しかも本人はやけに楽しそう。「楽しいのはいいけれど、これで絵は上手になるのかな」「絵を描く練習の時間が減っているのでは」と、少し不思議に思う気持ちはよく分かります。

家庭では、むしろ逆のことが起きているかもしれません。粘土は好きそうなのに、出すと机も床も服も手もべたべたになって、後片付けのことを考えると気が重い。乾くとぽろぽろ落ちるし、色が混ざって全部灰色になる。だからつい、片付けの楽なお絵かきやドリルばかりになって、粘土は棚の奥にしまい込んでいる——そんなご家庭も少なくないと思います。

この記事では、粘土で「立体」をつくる時間が子どもの何を育てるのか、平面の絵を描くときとどう頭の使い方が違うのか、そして家庭で粘土とどう付き合うと負担が軽くなるのかを、順を追って整理します。先に結論をお伝えすると、粘土あそびは、絵の“ついで”や“気分転換”ではなく、それ自体に子どもを育てる力があります。そして造形クラブが絵だけを扱わないのには、はっきりした理由があります。

平面の絵と、立体の粘土。使っている頭がちがう

紙に絵を描くとき、子どもは三次元の世界を二次元に「翻訳」しています。奥にあるものは小さく描き、手前のものは大きく描く。まっすぐ上から見れば丸いコップも、机に置いて横から見れば口の部分は楕円に見える。この「見えている形」と「知っている形」の違いに気づいて、紙の上に置きかえていく作業は、実はかなり高度です。大人でも、意識して描こうとすると手が止まります。だから絵を描く時間には、見たものを平面に写しとる観察の力が育ちます。

一方、粘土で立体をつくるときは、その「翻訳」がいりません。犬をつくるなら、前から見ても、横から見ても、後ろから見ても犬であってほしい。子どもは粘土を手の中でぐるぐる回しながら、「こっちから見ると鼻が足りない」「しっぽはもう少し下」と、いくつもの視点を同時に行き来します。絵は「一つの視点」を、立体は「すべての視点」を相手にする作業です。頭の中で物を回転させる力——空間認識と呼ばれるものが、ここでよく働きます。

どちらが優れている、という話ではありません。絵を描いて育つ力と、立体をつくって育つ力は、重なる部分もありますが、少しずつずれています。片方だけをやり続けるより、両方に行き来したほうが、子どもの表現の引き出しは増えます。造形クラブが水彩もパステルも立体も扱うのは、この「ずれ」を子どもに経験してほしいからです。

粘土あそびが育てる、4つの見えにくい力

粘土の時間に子どもが手に入れているものを、4つに分けて説明します。どれもテストの点数には出てきませんが、後からじわじわ効いてくる力です。

ひとつめは、空間と量をつかむ感覚です。粘土のかたまりを二つに分けると、片方を大きくすればもう片方は必ず小さくなる。丸めた玉を手のひらで押すと平たく広がり、指で挟むと細長くなる。形は変わっても、粘土そのものの量は増えも減りもしていない。この「かさ」と「かたち」は別ものだ、という感覚を、子どもは言葉ではなく手で覚えていきます。これはのちのち、算数の体積や図形の学習を、身体の実感で支えてくれます。

ふたつめは、手と指の発達です。粘土をちぎる、丸める、細くのばす、へこませる、二つをくっつける、表面をならす。指先の細かい動きを、一回のあそびの中で何十回とくり返します。そのうちに、「どれくらいの力で押せばつぶれるか」「どれくらいで折れるか」という力加減が身についてきます。保育の現場でも、粘土あそびは指先の巧緻性や集中力を育てる活動として位置づけられています(参考:ほいくis「粘土遊び」)。鉛筆を正しく持つ、はさみを使う、箸を扱う——そうした動作の土台にもなります。

みっつめは、見立てる力です。丸めた玉を「これはりんご」、細長い棒を「へび」、くぼみをつけたかたまりを「お風呂」。目の前のかたちに、別の意味を重ねてみる「見立て」は、想像力のいちばん最初の入り口です。見立てができる子は、目の前にないものを頭の中でつくり出す練習をしています。この力は、物語をつくる、人の気持ちを想像する、といった場面にもつながっていきます。

よっつめは、少し変わっていますが「やり直せる」という経験です。絵は一度描いた線を、完全にはなかったことにできません。でも粘土は、気に入らなければ握りつぶして、また一つのかたまりに戻せる。何度でも。「失敗しても、まるごと戻れる」という安心があるからこそ、子どもは思いきった形に手を出せます。この可逆性は、ほかの画材にはない粘土だけの性質です。

年齢ごとの、粘土との付き合い方の目安

発達によって、粘土で楽しめること・できることは変わります。あくまで目安ですが、下の表をゆるく参考にしてください。同じ年齢でも幅はとても大きいので、「うちの子はこのあたりかな」くらいの気持ちで見てください。

年齢のめやすこの時期に楽しめることそばにいる大人ができること
3〜4歳ごろちぎる・丸める・つぶすといった動作そのものを楽しむ。作品の形にならなくても大丈夫「気持ちいいね」「つめたいね」と感触を言葉にして一緒に味わう。上手さを求めない
5〜6歳ごろ玉や棒を組み合わせて「何か」をつくり始める。見立てが一気に増える時期「これは何?」と聞き、本人に名前をつけさせる。できあがった話を最後まで聞く
小学校低学年実際に見たものを思い出して再現しようとする。細かい部分にこだわり出すうまくいかない部分を「どうなってたっけ?」と一緒に思い出す。手は出しすぎない
小学校中学年以上全方向のバランス、動きのあるポーズ、物語のある場面づくりに挑戦する作品について対等に話す。芯材(しんざい)や乾燥のコツなど、技法を少しだけ紹介する

表からも分かるように、小さいうちは「何かをつくらせる」必要はまったくありません。ちぎって丸めてつぶす、それだけで指も感覚も育っています。「今日は何もつくらなかった」と本人が言っても、心配はいりません。手が動いていれば、それで十分です。むしろ「作品」を急かすと、粘土そのものを嫌いになってしまうことがあります。

家で使う粘土、どれを選ぶ?

「粘土」とひとくくりに言っても、種類によって家での扱いやすさはかなり違います。目的別に整理します。すべてそろえる必要はなく、まずは一つか二つで十分です。

  • 油粘土:乾かず、何度でもつくり直せます。感触の練習や、こまめに壊してはつくる遊びに向いています。油分で手や机がうっすら汚れるので、下に新聞紙やビニールシートを敷いておくと安心。作品として飾って残すのには向きません。
  • 紙粘土:軽く、乾かすとかたく固まり、上から絵の具で色も塗れます。「作品として残したい」「プレゼントにしたい」ときはこれ。乾く前は手やテーブルにつきやすく、乾いた後はやり直せないので、形が決まってから細部を仕上げます。
  • 小麦粉粘土:小麦粉・水・油・塩があれば家でつくれます。口に入れても大惨事になりにくいので、下の子がいるご家庭でも使いやすい(※小麦アレルギーのあるお子さんには使いません)。日持ちしないので、その日から数日で使い切ります。食用色素で色をつけると喜びます。
  • 土粘土(陶芸用):ずっしり重く、手にかかる負荷も大きい。本格的な手ごたえがありますが、乾燥や保管、焼きの手間があるので、家庭よりは教室向きです。

家で気軽に楽しむだけなら、まずは油粘土を一箱、または手づくりの小麦粉粘土で十分です。色や種類をたくさんそろえる必要はありません。むしろ色数がしぼられているほうが、子どもは「混ぜてみよう」「足りない色をどうしよう」と工夫します。道具も、粘土べらの代わりに割りばしやフォーク、ペットボトルのふたがあれば十分に遊べます。

後片付けを軽くする、小さな工夫

粘土を「面倒なもの」にしないコツは、始める前の三十秒の準備にあります。机いっぱいに新聞紙を広げる、専用の下敷き(使い終わったクリアファイルで十分)を一枚決めておく、粘土べらは割りばしやアイスの棒、フォークで代用する。そして「◯時になったらおしまい、片付けまでが粘土の時間」と、始める前に伝えておく。終わりを先に決めておくと、「もっとやりたい」で毎回もめずにすみます。

それでも机に残ってしまった油粘土は、新しい粘土のかたまりをぺたぺた押しつけると、面白いように吸い取れます。手についた分は、いきなり石けんで洗うより、先にティッシュや布でこすり取ってから洗うと早く落ちます。この「くっついて取れる」感じ自体を子どもは面白がるので、片付けを手伝ってもらうきっかけにもなります。

「絵画教室」ではなく「造形」の場、ということ

ここまで読んでいただくと、なぜ造形クラブが「絵だけ」をやらないのか、少し伝わるかと思います。造形クラブは、絵画教室というより「造形」——つくること全般をあつかう場です。ある日は水彩紙の上で色をにじませて遊び、別の日はパステルで手を真っ黒にしながら塗り重ね、また別の日は粘土や段ボールで立体を組み立てる。平面も立体も、同じ「表現」の仲間として並べています。

いろいろな画材や技法を行き来するのは、子どもによって夢中になれる「入り口」が違うからです。鉛筆の絵では手が止まりがちだった子が、粘土になったとたん止まらなくなる。立体は苦手でも、絵の具で色を混ぜている時間だけは別人のように集中する。さまざまな素材にさわるうちに、その子が我を忘れて取り組める入り口が見つかります。一つの画材だけだと、その入り口に出会えないまま「うちの子には向いていない」と思い込んでしまうこともあります。

造形クラブでの、立体の時間 ☺️

poppy questの造形クラブは、東京・三軒茶屋のギャラリーが教室です。毎週日曜10:00〜11:30、対象は年長〜小学生、各回6名の少人数制。講師は武蔵野美術大学 油絵学科を卒業した、現役の油絵作家です。

90分は、対話30分・制作60分・振り返り、という流れで進みます。粘土や工作の日も、講師がいきなり「今日は◯◯をつくります」とは言いません。まず「今日はどんなかたちにさわってみたい?」「かたいのと、やわらかいの、どっちの気分?」と話すところから始めます。制作中は、正面からだけでなく「うしろから見るとどうなってる?」と一緒に作品をくるくる回してみる。できあがったものについては、上手い下手で点をつけず、「どこがいちばん気に入っている?」と本人に聞きます。自己表現・主体性・粘り強さといった、テストでは測れない力が育つ時間だと考えています。

粘土の時間に、大人はどこまで手を出す?

見ていると、つい「もっとこうしたら?」「顔が反対向きだよ」と言いたくなります。でも、粘土あそびで大人がになう役割は、教えることよりも「そばで見ていること」に近いです。子どもが「見て!」と持ってきたら、「どこを工夫したの?」と聞く。行きづまって黙り込んでいたら、「いったん休憩する? それとも一緒に見てみる?」と選ばせる。答えを先回りして渡さないほうが、次に自分で考える力が残ります。

それでも手伝いたくなったときは、「つくってあげる」のではなく「隣で自分のぶんをつくる」のがおすすめです。大人が真剣に何かをこねていると、子どもは横目でそのやり方を見て、自然にまねをします。教えられるより、まねをするほうが、身につくことは多いものです。親子でそれぞれ好きなものをつくって、最後に見せ合う。それだけで十分に豊かな時間になります。

よくある質問

まったく興味を示しません。——最初は、ひんやりした感触やべたつきが苦手な子もいます。その場合は、乾いた手でさわれる紙粘土から、あるいはビニール袋ごしにさわるところから始めます。無理にこねさせず、大人が楽しそうにしているところを見せるだけでも十分です。半年ほどしてから、ふっと自分から手を出すこともあります。

いつも同じものばかりつくります。——それで大丈夫です。同じ電車、同じ剣、同じ犬。くり返しているうちに、少しずつ細部が変わっていきます。「またこれ?」と言わずに、「前のと、どこが違う?」と聞いてみてください。本人なりの小さな進化が見えてきます。

片付けを嫌がります。——「片付け」と言わずに「粘土をおうちに帰してあげよう」と言いかえる、タイマーを鳴らす、大人が半分やって残り半分を任せる。ハードルを下げる工夫をいくつか持っておくと、毎回のもめごとが減ります。片付けまでを最初から「粘土の時間」に含めておくのがコツです。

まとめ ✨️

粘土で立体をつくる時間は、絵の練習の代わりでも、ただの息抜きでもありません。いくつもの視点を同時に考える力、指先の器用さ、目の前にないものを思い描く想像力、そして「握りつぶしてやり直せる」という安心。平面の絵とは少しちがう筋肉を使う時間です。家で始めるなら、油粘土か小麦粉粘土を一つと、新聞紙を一枚。道具はそれで足ります。

poppy questでは、絵も立体も、その子が夢中になれる入り口を一緒にさがしていきます。「絵画教室だと思って申し込んだのに」という戸惑いも含めて、お子さんに今どんな素材が合いそうか、一緒に考えていきます。お気軽にご相談ください。詳しくは造形クラブのページをご覧ください。

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  • 毎週日曜 10:00〜11:30
  • 年長〜小学生
  • 各回6名の少人数制
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